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色材の解剖学① 油絵具の乾燥

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色材の解剖学では、色材に関する基本知識から専門的な内容まで制作に役立つさまざまな情報をご紹介します。

油絵具の乾燥

水彩絵具と油絵具の乾燥の違い

水彩絵具はもともと固体である糊材が水に溶解した状態になっています。水分が蒸発し、固体として残った糊が顔料を定着させる仕組みです。そのため蒸発した水の量だけ絵具の体積が減ります。
それに対して油絵具では、糊材である乾性油が酸化して固化します。糊材そのものが液体から固体に変わって乾燥するため、体積が減らず厚みのある表現が可能になります。

油絵具の乾燥プロセス

油絵具の代表的な乾性油はリンシードオイルです。
主成分はリノレン酸という脂肪酸で、空気に晒されているうちに酸素と結合する性質を持っています。
空気に触れるまで乾性油の中でバラバラの状態にあったリノレン酸の分子は、酸素をなかだちとして次々とつながっていき、やがてジャングルジムのように組み合って動かなくなります。これがリンシードオイルの固化した状態です。
乾燥途上の油絵は独特のにおいがしますが、これはリノレン酸が酸素を吸収して乾燥するまでの間に、二酸化炭素などさまざまなガスを放出するからです。ちなみにポピーオイルの乾燥がリンシードオイルより遅いのは、主成分であるリノール酸がリノレン酸よりも酸素とつながりにくい分子構造をしているためです。

油絵具の乾燥
水彩絵具の乾燥

乾燥促進の方法

油絵具の乾燥を速めるためには、2つの方法があります。
ひとつは樹脂を混ぜる方法で速効性があります。チューブ入りの「ラピッド メディウム」や「ストロング メディウム」、「透明メディウム」がこれにあたります。混ぜる量に制限はなく、量が多い程速く乾きます。ただしその分、絵具の透明性が増したり、艶の状態が変わったりするので注意が必要です。
もうひとつはシッカチフ(乾燥促進剤)を混ぜて、油絵具の乾燥システムそのものをスピードアップさせる方法です。これだと、油絵具の性質を保持したまま乾燥を速めることができます。

絵具状メディウムの比較

いずれも乾燥後の画面です。 混合絵具はウルトラマリン ブルーです。

メディウムの比較
メディウムの比較
メディウムの比較
メディウムの比較

卓越したシッカチフの酸化システム

シッカチフが優れているのは、成分中に含まれている金属類(亜鉛、コバルト、マンガンなど)が乾性油に酸素を供給する役割を果たすからです。油絵具に添加されるとこれらの金属は空気中の酸素と結びつき、再び酸素を手放すという働きをします。この働きによって絵具の塗膜表面にたくさんの酸素が集められ、絵具の酸化が促進されるのです。淡色の「シッカチフ ブラン」は絵具を内部からじっくり乾かし、褐色の「シッカチフ クルトレ」は表面と内部から強力に乾かす製品です。いずれもシッカチフの液色は乾燥とともに消えていきます。しかし、混ぜ過ぎると絵具の上層・下層の乾燥速度のバランスが崩れ亀裂やちぢみの弊害を伴いますので、適量使用することが大切です。



色材の解剖学は順次資料室へ収録していきます。