菊池 遼
KIKUCHI Ryo
void #71
アクリル絵具、ジェッソ、パネル
30.0×30.0cm
2019年
void/空な存在
私の作品の主題は、ものの備える、それ自身をかたち作っている輪郭です。或るものと他のものを分け、そのものの存在を可能としている輪郭。それについて私は思考し、作品としています。例えば周囲を見渡してみてください。そこには様々な何かが存在しています。それはまさに、この文章が表示されているパソコンやスマートフォンであり、部屋にかかっている時計であり、あるいは遠くに見える山々であったりします。それらは明確な輪郭を備えてありありと私たちに対して現れてきます。しかし、それらのものをそれ足らしめている輪郭は、果たして客観的なものなのでしょうか。つまり、それらはそれら自身でその通りに在るのでしょうか。私はそれに対して、否定的な考え方をしています。つまり、それらのものをそれら足らしめている輪郭は、主観がそこに、その通りに引くことによって初めて生じる。そのように考えているのです。そして、そのような発想に従えば、私たちに対して現れてくるそれら何かの群れは、ただ主観と関わることによってのみ生じる現象として、極めて弱い在り方をしているのだと考えることができると思います。なぜならば、そこに別の輪郭が引かれたならば、それまで現れていた或る何かは、別の何かとして現れることになるからです。私の作品は、そうした発想を前提に制作されています。
その上で、奨学期間中に取り組まれていた〈void〉という絵画作品のシリーズについて、そのコンセプトを述べたいと思います。作品の画像をご覧頂ければ分かると思いますが、〈void〉シリーズの作品は、画面が荒い網点で構成されていることを特徴としています。それによって、作品を離れて見た際にはそこに或る何かの像が見えますが、それが何であるのかを確認しようとして作品に近付くと、それまで見えていた像が点の列に還元されてしまい、それに辿り着けないという特殊な視覚効果が作られています。そのような、描かれた像に辿り着けないという体験を通して、私の考える、輪郭をめぐる思考から導かれた、事物の弱い在り方、はかなさ、現象性の表現を試みています。
一般的な絵画作品は、描かれた像そのものによって表現が行なわれます。しかし、私の作品はそうではありません。その描かれた像へと辿り着けないという体験それ自体によって、表現が行なわれているのです。
void #64
アクリル絵具、ジェッソ、パネル
20.0×20.0cm
2019年
奨学期間中の取り組みと今後の活動方針について
私は荒い網点を画面に用いることで特殊な視覚効果を生じさせ、表現を行なっています。画材には主にアクリル絵具を用いており、その中でもシルバーやゴールドなどの金属色、あるいは蛍光色の絵具を多く用いています。そうした特殊な発色をする絵具の特性を利用することによって、荒い網点の視覚効果を際立たせることを意図しています。それぞれの絵具の特性に従って、その視覚効果が新たに様々な表情を備えるのです。
そうした私の制作はつまり、新しい画材と出会うことによって新しい展開を迎えていく側面があります。今回のスカラシップでは様々な画材を試させていただき、また新しい出会いがありました。それは「アクリリックカラー[イリデッセンス]」です。この画材は見る位置(光の位置)によって色が変化する特殊な顔料が用いられている絵具で、自分の作品で表現しようとしている内容、つまり、ものの儚さや現象性と親和性があると考えられ、作品をまた一つ展開させることができました。
今後の活動ですが、2020年度より東京造形大学の博士課程に進学する予定です。奨学期間中であった2019年度には、東京造形大学の絵画専攻領域の助手として勤務しつつ作家活動を行なっておりましたが、進学によってより研究・制作に集中することができるようになると考えています。ホルベインスカラシップで様々な画材を試すことができるなかで得られた知見も活かして今後も研究・制作に取り組んでいく所存です。
void #66
アクリル絵具、ジェッソ、パネル
45.0×45.0cm
2019年
プロフィール
菊池 遼 KIKUCHI Ryo
1991年 青森県生まれ
2020年 東京造形大学大学院 造形研究科美術専攻領域 博士後期課程 在学中
2017年 東京造形大学大学院 造形研究科美術専攻領域 修了
2015年 東京造形大学 造形学部美術学科絵画専攻 卒業
個展
2019年 OUTLINES EUKARYOTE/東京
2017年 無/(分節) Frantic Gallery/東京
グループ展
2020年 Visionary Vision Medel Gallery Shu/東京
2019年 雲に杭を打つ 東京造形大学/東京
Hope's harbinger 特別展示 香月恵介×菊池遼 二人展 EUKARYOTE/東京
OUTLINES 特別展示 菊池遼×香月恵介 二人展 EUKARYOTE/東京
菊池遼|香月恵介 イメージとの距離 関内文庫/神奈川
東京造形大学第五回助手展 東京造形大学/東京
もの・かたり-手繰りよせることばを超えて- ヒルサイドフォーラム/東京
HELLO My name is ________ EUKARYOTE/東京
2018年 rgb++ 2018 exhibition vol.10 東京造形大学/東京
東京造形大学第4回助手展 東京造形大学/東京
2017年 rgb+ 2017 exhibition vol.9 東京造形大学/東京
派生する幹-DERIVATION from the TRUNK- SEZON ART GALLERY/東京
ZOKEI展 東京造形大学/東京('15)
2016年 UNKNOWNS 2016 藍画廊/東京
Mポリフォニー 2016-原(形/型)- 東京造形大学/東京
2015年 2015 FRANTIC UNDERLINES Frantic Gallery/東京
アートプログラム青梅 cafe ころん/東京
Mポリフォニー 2015 アングル 東京造形大学/東京
第二回CAF賞作品展 アーツ千代田3331/東京
母袋ゼミ abflug展 アーツ千代田3331/東京
TURNER AWARD 2014 TURNER GALLERY/東京、地方巡回
2014年 アートプログラム青梅 青梅総合高等高校/東京
受賞歴他
2019年 第33回ホルベイン・スカラシップ奨学生
2017年 ZOKEI展 ZOKEI賞(修了制作優秀賞)
2015年 第二回CAF賞 入選
ZOKEI展 ZOKEI賞(卒業制作優秀賞)
2014年 TURNER AWARD 2014 未来賞