
島田 萌
SHIMADA Moe

absolute difference series “Flower XVlll”
油絵具、ジェッソ、キャンバス
130.3×80.3cm
2024年
ステイトメント
私は、スマートフォンやタブレット端末などのデジタル機器を用いて加工・編集を施した写真をもとに、それを油彩で描くという手法で制作を行っています。美術を学んでいた学生時代にスマートフォンが急速に普及し、日常的に写真を撮影・加工する環境が整っていったこともあり、自然とデジタルツールで下絵を作るようになりました。写真編集の延長線上に絵画制作があるという感覚は、当初から自分の中でごく自然なものでした。
スマートフォンやパソコンの画面越しに見る世界には、肉眼では捉えきれない歪みやノイズ、光のにじみや色彩の偏差が表れることがあります。私はそれらを単なる技術的なバグやエラーではなく、現代における新たなリアリティ=“新しいリアル”として捉えています。そうした偶発的な視覚情報を、油絵具という物質的なメディウムを通して絵画に転写することに強い関心を持っています。
画像編集においてフィルターを重ねる行為は、油彩におけるレイヤーの重なりと構造的に似ています。どちらも透明度や質感、奥行きを操作する中でイメージが立ち上がっていきます。私の作品は、画像で見るとしばしば写真のように錯覚されることがありますが、実際に作品の前に立つと、油絵具の層が厚みを持って現れ、視覚と物質のズレが際立ちます。この“見ること”と“在ること”の差異を意識させる構造も、私の制作の中核にあります。
近年は、アナログのキャンバスで液晶画面のような発光感や艶のある質感をどこまで再現できるかを探っています。あえて物質性の強い油彩という古典的な手法を用いることで、デジタルイメージが持つ非物質的な質感との接点や、そのあいだに生まれる緊張関係を探っています。
当初は人物画を主なテーマとしてきましたが、現在では壺を描いたモランディシリーズや、花・静物・風景などにもモチーフを広げながら、より構成的・実験的なアプローチを進めています。

absolute difference series"Santa Claus"
油絵具、ジェッソ、キャンバス
65.2×50.0cm
2025年
奨学中の取り組みについて
奨学前は、下地以外は全て油彩で制作しており、長く油絵具を使ってきました。ただ、油彩特有の画面の乾燥の遅さにはずっと悩まされていて、新しい画材を試してみたい気持ちはあったもののアクリル絵具などは道具を一式揃える必要があり、なかなか踏み出せずにいました。
そのため奨学期間中は、これまで主に使用してきた油彩において新たな絵具を試すことに加え、アクリル絵具やエアブラシなど、これまで使用したことのない画材にも積極的に挑戦しました。
油彩では、「油一」の絵具を全色ご支給いただきました。奨学期間中には個展があり、その際にこの絵具を積極的に使用させていただきました。発色の良い絵具というのは、顔料濃度が高く、それに伴い価格も高価になるため、大きな画面においては日頃どうしても使用を躊躇してしまう部分があります。しかし今回はご支援のおかげで、惜しみなく大胆に使うことができました。
実際に使用してみて、色の発色が非常に素晴らしく、これまで理想の色に近づけるために何層にも絵具を重ねていた部分が、一色で十分に表現できる場面が多くありました。透明色は薄く溶いても発色が良く、グレージングにも適しており、今後も継続的に使用していきたいと感じています。
今回支給していただいた画材の中でも特に興味深く、今後さらに取り入れていきたいと感じたのがエアブラシです。油彩では、グラデーションを描く際に絵具が乾く前にぼかす必要があるため、色の組み合わせによっては濁りが生じるという制約があります。例えば赤と緑のような補色同士を混ぜると、境界が茶色く濁ってしまうことがありました。しかし、エアブラシでは、絵具を混ぜるのではなく、粒子状に塗布することで繊細なグラデーションを作ることが可能です。その結果、これまでにない滑らかで絶妙な色を表現することができ、大きな発見となりました。
また、アクリリックインクを塗料として使用したことにより、乾燥時間が非常に早く、制作のスピードが上がった点も大きな収穫でした。油彩に比べて計画的にレイヤーを重ねやすくなり、画面構成の自由度も高まりました。
ご支給いただいた画材の中には、まだ十分に試しきれていないものも多くありますが、今後の制作を通して少しずつ取り入れながら、新たな表現の可能性を引き続き模索していきたいと考えています。
奨学期間中に最も使用した
ホルベイン製品について
・油絵具/油一
絵具の発色が素晴らしく、パレットに出した瞬間にその鮮やかさに感動しました。一層でしっかりと色が決まり、重ね塗りの回数を抑えられる場面も多かったです。特に印象に残った色はコバルトバイオレットで、紫を多用する自分の作品において今後も継続的に使っていきたいと感じました。一方で、絵具によって粘度にややばらつきがあるため、必要に応じて乾性油で調整しながら使用しました。
・アクリル絵具/アクリリック[インク]
エアブラシでの制作において、アクリリックインクは水で希釈せずにそのまま使用できる点が非常に便利でした。リターダーを併用することでノズルの詰まりも防げ、快適に制作を進めることができました。また、専用の空ボトルを使えば、あらかじめ混色した色を保存しておけるのでとても助かりました。エアブラシによる繊細な表現にとって、非常に相性の良い画材だと感じています。
・アクリル絵具/アクリリック カラー[ヘビーボディ]
もともとアクリル絵具の速乾性に苦手意識がありましたが、リターディングメディウムを併用することで乾燥時間が少し延び、扱いやすく感じられるようになりました。絵具の粘度が軽すぎる点にも抵抗がありましたが、メディウムを加えることで若干粘りが出て、扱いやすさが向上しました。ただ、油彩に慣れている自分としては、もう少し重さのある粘度にできればより理想的だと感じました。
・刷毛/アクリリックブラシ
ホルベインのアクリリックブラシは、毛がほとんど抜けず、非常に品質が安定していると感じました。軸もしっかりしており、長時間の使用でも手に疲れが残りにくいのが印象的でした。サイズ展開も豊富で、幅は20mmから120mmまでの8種類があり、用途や描きたい画面のサイズに応じて選べる点も非常に便利でした。

out of focus series “Landscape”
アクリル絵具、ジェッソ、パネル
53.0×45.5cm
2025年
プロフィール
島田 萌 SHIMADA Moe
個展
グループ展
受賞歴
