絵具、絵画材料のホルベイン

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中村 百花 
NAKAMURA Momoka

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夜の月
油絵具、キャンバス
53.0×45.5×2.0cm
2025年

ステイトメント

記憶の中の光景や自己や他者との関わり合いなど自身の周りにありながらも移り変わる物事を描いている。絵の中に映る顔には輪郭はなく、その実体には触れることは出来ない。水に触れる様に絵にも触れていく。深く潜ったり、表層の煌めきを眺めたりする。絵の中にも光や空気や風を感じてみたいと思う。


自身の記憶の中にある景色や光景、自分自身や他者の関わり合いを描いています。

絵の中には顔が描かれていることが多く、それらを周りの筆跡で輪郭をぼかしていきます。周りの境界線をなくすことで、対象との距離の曖昧さを表現し、見る人にいろいろな想像をしていただきたいと思っています。

触れることのできないものを描く、または信じる、祈るという考えは、私自身が中学高校と通っていたキリスト教教育の学校の影響があるかと思います。遠くにあるけど身近に感じる、そのようなものをモチーフに描いており、現在は星や水辺を描いています。

星を描く時は、絵の中で点を打つことで、視線の誘導も行い、またそれらが絵の中の中心となって、動いてくれていると思います。水辺は表層の煌めきと、潜った時の水に触れるイメージとどちらも描いており、その表現方法については今後も形を変えながら続けていきたいと思っています。最近は絵の中の季節や時間、朝、昼、夜それぞれの時間についても考えて制作しています。そしてそれらと共に顔というモチーフを加え、描きながらどこまでモチーフを見せるかを考えています。顔以外のモチーフがあることで絵全体の抽象度を高めてくれていると思います。

描き方について、まず日々書き溜めているメモから絵にしたいスケッチを選び、水彩や色鉛筆でドローイングをしてから、キャンバスに移行します。キャンバスの布地に絵具を滲ましたり、絵具の量を少なくして掠れたような表現をします。薄く絵具を重ねていくことで軽やかな状態を保ち仕上げていきます。どのようにして描いたのか、分かりにくい要素を入れて、長く見続けられる水辺のような静かな気持ちで見てもらえる絵を作りたいと思っています。

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夜の中
油絵具、キャンバス
35.0×27.0×2.0cm
2025年

奨学期間中の取り組みについて

奨学期間中の一年は個展とグループ展に向けて制作していました。現在もグループ展と個展に向けてこれまで頂いた画材を実際に使用して準備しました。

5月に開催した個展では、過去制作した作品をまとめてみることで、自分自身の作品のこれまでの流れを再確認しました。最近は水の中のイメージや星を作品の中に入れているので、1点ずつ違った作品ではありますが、並べるとまとまりがあり、心地よい展示を作ることができました。また、何年か制作し溜めていた水彩画も最近まとめて発表することができ、これまで以上に水彩画の描き方について深めていこうと思いました。

期間中、水彩画に必要な道具も見直したことで表現の幅が広がりました。特に透明水彩絵具グラニュレーティングカラーズは、深みのある色合いが好きな私にとって取り入れやすい絵具でした。

また、この機会に筆も見直してみようと、ホルベインのショールームで、長い線を引く筆や、水を多く含む筆などを試させていただきました。筆を変えると、これまでの描き方では上手くいかないこともあり、手に馴染むまでまだまだ時間はかかりそうですが、少しずつ筆も揃えていきたいです。

これまではドローイングとして水彩画を描いていましたが、もう少し大きい水彩にも挑戦し、ひとつの作品として水彩画を描き展示してみたいと思えるきっかけになりました。

6月に参加した「ホルベイン・スカラシップ展 2025」では、ホルベインの社員の皆様ともお話しする機会があり、使用している画材でできる表現方法や画材、素材についての素朴な疑問、また現在使用している画材と併用できる材料について教えていただきました。また、今更聞きにくい基礎的だと思っていたことも丁寧に教えていただいたことでより深く理解することができました。
併設しているホルべインのショールームでは、実際に画材を見たり試してみることで使用したときの想像もでき、より具体的に奨学生の製品を選ぶことができました。

これまでは何を描くかに悩んだり、たくさん絵を描くことで作品も良くなるだろうという考えで、画材に向き合うことが疎かになっていたと思います。今回のスカラシップの期間でより画材が身近になり、できる表現の幅が少し広がりました。今後新たな画材を使って、作りたい下地や絵もホルベインの方々と話す中でいくつか出てきたので、試していきたいと思います。

今後の課題としては、構図やモチーフの幅を増やしていくことです。現在は顔を中央に置いた構図が多いですが、もう少し人物に動きをつけた構図を作っていきたいです、静物、植物や蝶や動物など、イメージだけで描いてしまうモチーフを丁寧に観察し、いろいろなモチーフを作品に取り込んでみたいと思います。

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蝶々の夢
水彩絵具、色鉛筆、紙
29.7×21.0cm
2025年

奨学期間中に最も使用したホルベイン製品について

・アクリル メディウム/クリア ジェッソ

普段の下地作りから使用していて、麻の色を少し残したい時やクリアジェッソ自体のざらつきが気に入っています。最近はクリア ジェッソとジェッソを混ぜたり、クリア ジェッソの上にジェッソを重ねたり、より描きやすくなるまで下地を重ねています。下地の出来によって絵の完成の仕方が変わってくるので、今後も色々と試していきたいです。

・油絵具/油一

発色が良く、普段から絵具を薄く重ねて描くので、自身の制作に向いていると思いました。

・アーチスト色鉛筆

以前まで使用していた色鉛筆より滑らかで、発色も良く描きやすいです。⾊鉛筆を使っての制作は少しずつしか進まないのですが、その時間のかかる要素が油彩にも影響されていると少しずつ実感しています。

・透明水彩絵具/グラニュレーティング カラーズ

これまでに使ったことのない深みのある色が多く、粒子により色が分かれていくので、絵の中で偶然によってできる表現が面白いです。今後それぞれを混色して深みのある絵を作っていきたいです。

・固形水彩絵具/パンカラー

以前から見たことがあったものの、スケッチ用だと思い使用していませんでしたが、普段私が使用している透明水彩よりも良い顔料で作られていることを知りました。実際に試してみると、驚くほどに発色がよく、手元が狭くても使いやすいデザインで、小さな絵を描くときや、今使っている透明水彩と併用して使用していきたいです。

・ヴェルネ画用液/ターペンタイン ストロング

普段は、普通のターペンタイン(テレピン)とポピーオイルを使用しており、油彩で描いてる層をターペンタインのついた筆で拭き取りながら下の層の形を出すという表現をしていましたが、ホルベインの社員の方よりヴェルネ画用液なら線が滲みにくく、描きやすくなると教えていただきました。実際に使うと、筆の運びがいつも使っているものと比べて良く、今後ターペンタインと併用して使う中でさらに違いを見つけていきたいと思います。

また、まだ試せてはいませんが、今よりざらつきのある下地を作ってみたいと思っており、下地を作る中で重たくならない程度にモデリングペーストを少し混ぜてみようと考えています。

プロフィール

中村 百花 NAKAMURA Momoka
1997年
兵庫県生まれ
2020年
京都芸術大学芸術学部美術工芸学科洋画コース 卒業
2022年
知県立芸術大学大学院美術研究科博士前期課程油画版画領域 修了

個展

2025年
煌めきをなぞる  ミュゼポインゴ/大阪
2019年
Honest  FLAT space/大阪

グループ展

2025年
ホルベイン・スカラシップ展 2025  ホルベイン アートスペース/大阪
2023年
Say don’t you  NEST/大阪
透過する瞳の先へ  YOD TOKYO/大阪
Kyoto Art for Tomorrow 2023 ―京都府新鋭選抜展―  京都文化博物館/京都

受賞歴他

2024年
第37回ホルベイン・スカラシップ奨学生