絵具、絵画材料のホルベイン

スカラシップ > スカラシップ・レコード > 第33回奨学生レポート > 第33回奨学生のレポート① 飯田 翔之介

scholaship_v33_01.png
飯田 翔之介 
IIDA Shonosuke

scholaship_v33_01a.png

flag
油絵具、キャンバス
41.0×41.0×2.0cm
2019年

つくりたいもの

個としての作品、もしくは連続性を伴なった全体としての作品を捉えるとき、それらの見地が一体どこにあるのかを理解する為には、先ずはじめに作者自身の立脚点をはっきりとさせる事が重要となります。自らを構成する要素を正しく認識する事が、制作をする上で最も大切となるのです。その中でも基本的な部分に関しての話を展開していきたいと思います。
私がつくりたいもの、それは改変されゆく物語としての神話です。神話の定義には諸説ありますが、意味として辞書には「①現実の生活とそれをとりまく世界の事物の起源や存在論的な意味を抽象的に説く説話。神をはじめとする超自然的存在や文化英雄による原初の創造的な出来事・行為によって展開され、社会の価値・規範とそれとの葛藤を主題とする。②比喩的に、根拠もないのに、絶対的なものとして信じられている事柄。《新村出(編)/広辞苑 第六版/岩波書店》より引用」とあります。これらが根拠となる命題として、自らが表現したものを他者と共有していく上での本源となります。何故そもそもの根拠となるのかについては、順に追っていきたいと思います。
絵画をはじめとした文学や音楽、映画といった著作物、もしくは哲学や民俗学、科学など異なる視点に多義性を含ませながら編纂していくことが、私にとっての現代における神話を形成する一つの手段といえます。差はあるものの、この制作における一定の規範を形作ったのは幼少期の頃であり、それはある職業、ひとえに漫画家になりたいという動機がそもそもの創始の発端なのです。職業として考えたとき、当然行うべき実技的作業はより具体的なものとなっていきます。画力だけでなく、ストーリー、世界観、キャラクター、絵、テーマといったものにいかに説得力を持たせるか、その全てに関心を持ち続け、注力することが訓練として必要になるのです。こうした行為は現代における神話、もしくは現代から想定されうる神話を新たに創造することに他なりません。虚構性を良しとした考え方がまず前提としてあり、先ほど述べたように根拠として自らの中にはっきりとあるのです。作品には表現としての漫画的要素は一切表出していませんが、こうした置き去りにしていったものに今一度目を向けてみるときだと、最近では強く感じています。“つくりたいもの”とは一体何なのか、これからも探究していきたいのです。

scholaship_v33_01b.png

tent
油絵具、キャンバス
80.0×60.0×2.5cm
2019年

ダウジングのタイミングは常日頃から

奨学品を受給させていただくにあたって、奨学期間中をどのように捉え、それによってどんなことを今後自らに期待するのか、といったことが先ずは当然ながらテーマとしてあると思います。考え方として、とるべき選択肢はシンプルです。
一つ目は従来の制作手法に根差した製品を集中的に受給し、今やるべきことのための最大限の恩恵を受けること。次に、そうした常時使用している製品に加え、あまり馴染みが無い材料もバランス良く加えること。最後に、敢えてすべてを普段全く使用していないものに限定してみることが挙げられます。どのような人であれ一つ目は非常に有り難く、二つ目も良い選択といえるでしょう。最後のものに関してはなにやら一種の修行のようですが、自らに与えたこうした枷が意外にも大きな収穫をもたらすことは珍しくありません。日常的にいえることですが、その選択の違いによって得られる感受能力は大きく変わってくると思います。
私は2つ目を選びました。なんだ、ここまでごく当たり前のことを述べておいて、尚且つ選んだ選択肢も2つ目か、と思われるかもしれません。確かに、3つ目でしたら物語としては一番面白いかもしれません。しかし私が自らにはっきりと課したのは、いまやるべきことに加え、やってこなかったこともやるべきことに加えようというものでした。単に希望的観測でいくつかの馴染みが無い製品を受給するのではなく、それらを結果として必ず作品に結実させ、今後の展覧会で発表することを絶対条件としたのです。そのためにはそれなりの作品強度になるよう腐心しなくてはなりません。素材の成り立ちを知り、実際に手を動かしその特性を理解していきながら、これまでにどのような表現に使われてきたのかを調べ、コンセプト上に組み込んでいくことが、自分にとっての課題となりました。それはすなわち“人生には終わりがある、常日頃から可能性という地図を埋めておけ”という訓示なのかもしれません。

scholaship_v33_01b.png

kubrick
油絵具、キャンバス
80.0×80.0×2.5cm
2019年

プロフィール

飯田 翔之介 IIDA Shonosuke

1990年 東京都生まれ
2014年 多摩美術大学 美術学部絵画学科油画専攻 卒業

個展
2018年 INTERMISSION  SUNDAY/東京
     behind me(公開制作)  KOMAGOME1-14cas/東京
2015年 further  RISE GALLERY/東京
2014年 technique  RISE GALLERY/東京
     back to nature  RISE GALLERY/東京

グループ展他
2019年 絵画たらしめる  アキバタマビ21/東京
     @Human  ギャラリー美の舎/東京
     Affordable Art Fair NYC  メトロポリタン・パビリオン/ニューヨーク[アメリカ]
2018年 ART in PARK HOTEL TOKYO 2018  パークホテル東京/東京
     ワンダーシード 2018  TOKAS本郷('16、'17)/東京
2017年 Special edition 2017  RISE GALLERY/東京
2016年 Collaboration Project  MASATAKA CONTEMPORARY/東京
     FACE展 2016  東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館/東京