絵具、絵画材料のホルベイン

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井上 瑞貴 
INOUE Mizuki

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安全な街
アクリル絵具、オイルパステル、キャンバス
140.0×204.0×4.0cm
2020年

小さな声のボリュームを上げる

思考する際の箇条書き

  • 逃げざるを得ない立場を了解した上でつくること
  • エモーショナルな視点を受け入れること
  • 手紙を送るような時差に耐えること
  • 大げさなアクションではなく寄り添う態度を示すこと
  • 気がつく彩度、ラフな線、肯定的な色

日常の中で感情が揺れ動く場面を採用することが多い。プライベートなモチーフを描く際、ペインタリーな行為は表現として効果的である。自身のドローイングをiPhoneのスキャンアプリで取り込み、輪郭をデフォルメさせる。デフォルメの行為は、感情的な行為を一旦自分から疎遠にし、それを眼差す他者にもさせる。1つの絵をつくる中で、自身の感傷的なものと、それを眼差す自分の両方を体験する。そのプロセスが今は重要だと思う。作品をプライベートなレベルの物語にしたいわけではなく、共有可能な問題として話がしたいと思っているから。例外なくある自分の、あの人の、「ような」他者と、それは離れた時代の、遠くの、視点を共有し合えなかった他者に。わたしが現在ここに生きていて、作品をつくる効果を考えたい。

大げさなアクションではなく、寄り添う態度を示し、揺れ動く感情や事柄を可視化すること。そこに至った経緯を、そこに居ることを、覆い隠したりせず、別の大きな声でかき消されたりせぬよう、確かな声のボリュームを上げること。それは大きな声への抵抗ではない。マイナスな思考さえも、曖昧に思える小さな声も、ラフに線を引いて、肯定的に色を用いて、気がつく彩度が上がる視点を起こす。1枚の絵ではなく、続いていくものの中で拾える声がわかればいいと思う。ガラリと変わるのではなく、少しずつ変わる中で、わたしの態度が伝わればいいと思う。

近所にけんちゃんって人がいて、小学生の時、いつもバス停にいて、けんちゃんはバスが大好きで、たまに大きな声を出しちゃうだけで、そこらへんの人より礼儀正しい。他の人と違うのは、知的障がいを持ってるってだけで、ただそれだけなんだけど。家から数キロ離れたところに障がい福祉サービス事業所っていうところがあって、当時は私が通っている小学校となんら変わらない学校だと認識してた。だから近所の人はけんちゃん「みたいな人」に見慣れていて、そういう人もいるんだなあくらいだったから、今どこにそういう人がいてもなんも思わないというか、日常の一部で否定的な意味じゃなくどうでもよくて、特別視する対象でもなんでもない。周りの人はけんちゃんは、けんちゃんだって感じで見てた。

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ルーチンワーク(2)
アクリル絵具、オイルパステル、キャンバス
91.0×116.7cm
2019年

奨学期間中の取り組みと今後の活動方針について

ドローイングをする際自分の感覚から乖離しないよう、絵具は扱いやすくなければなりません。よく使用したのは、アクリリックカラーのヘビーボディ、クリスタルジェルメディウム、グロスメディウムです。乾く前と、乾いた後で色の差が少なく、ペインタリーな作業をしても掠れずついてきてくれる画材でした。奨学期間中、2つの展覧会に参加しました。1つ目は渋谷にある引き渡し前のビル一棟を貸し切って行った「CCIGTOFF COLLECTION VOL.1」。それぞれ作家にスペースが与えられ、私は一室を頂戴し、個展形式で作品を発表しました。そこでは、ヘビーボディのルミナスレッド、グレーと、オイルパステルを使用したF50号2点を中心に小さな作品を何点かと、映像作品を1点と、光源の色彩をブルーに変えた空間をつくりました。その中でルミナスレッドが深いレッドに色を変え、光源を変えても絵具の発色の良さは変わらないことを再確認しました。小さな作品の画面には、同じく、アクリリックカラーヘビーボディの、コンポーズバイオレットを中心とし、何層かクリスタルジェルメディウムを塗り重ね、それは層としてシンプルですが、強度のある画面になったと思います。 2つ目の展覧会がライズギャラリーでのグループ展です。その作品は、アクリリックカラーフルイドを使用したドローイングをスキャンし、プロジェクターで塩ビ板に投影し、作品化したものです。塩ビ板に絵を描く事は過去にもありましたが、ヘビーボディを使用し、よく定着したのでこれからも様々な支持体に絵を描いていけると楽しみです。

思考することを彩度が高い色彩をもって肯定的に作品を残しています。その為色彩を多く必要とするので、普段購入出来ないような色を試す事ができて大変ありがたかったです。今後も変わらずコツコツと作品を作り続けたいです。ありがとうございました。

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追いついた夜(2)
アクリル絵具、オイルパステル、キャンバス
91.0×116.7cm
2019年

プロフィール

井上 瑞貴 INOUE Mizuki

1992年 熊本県生まれ
2019年 多摩美術大学大学院 美術研究科修士前期課程 修了
2017年 多摩美術大学 絵画学科油画専攻 卒業

個展
2019年 CCIGTOFF COLLECTION VOL.1 寡黙な夜について  渋谷区富ヶ谷空きビル/東京
     IT RAINS A LOT  多摩美術大学/東京
2018年 PERFECT DAILY  多摩美術大学/東京
2017年 Re:home  多摩美術大学/東京
2016年 ビータドライブ  Troubadour/東京
2014年 humanité lab vol.53井上瑞貴展<mycon>  ギャルリー東京ユマニテ/東京

グループ展
2020年 Creativity Continues 2019-2020 第6弾  RISE GALLERY/東京
2019年 CCIGTOFF COLLECTION VOL.1  渋谷区富ヶ谷空きビル/東京
     転回する与太話  アキバタマビ21/東京
     第42回 東京五美術大学連合卒業・修了制作展  国立新美術館/東京
2017年 第40回 東京五美術大学連合卒業・修了制作展  国立新美術館/東京
     TAMABI select 4  アートテークギャラリー/東京
     TURNER AWARD 2017  TURNER GALLERY/東京('15)
2015年 トーキョーワンダーウォール2015  東京都現代美術館/東京
     ワンダーシード2015  トーキョーワンダーサイト渋谷/東京

受賞歴他
2019年 第33回ホルベイン・スカラシップ奨学生
2017年 TURNER AWARD2017 入選
     多摩美術大学卒業制作 優秀賞
2015年 TURNER AWARD 2015 入選
     トーキョーワンダーウォール2015 入選
     ワンダーシード2015 入選

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