末松 由華利
SUEMATSU Yukari
たけなわ
アクリル絵具、キャンバス
162.0x130.0cm
2020年
絵画によって創り出す「体験的空間」
『私たちが生きていく上で、必要不可欠ではあるが、過分にあり過ぎると毒になりうるものがある。
そのようなものに、自身が、他者が、社会が、時代が、どのように向き合い、反応するのか。
その局面を描出することで、この世と、今を生きる私たちの偽りのない姿を見澄ましたいと願う。』
上記の文章は現在、ステイトメントとして自身のウェブサイトに掲載しているものだ。
そこでも述べているように、私は、私たちや社会が理想として掲げるものや常識とされているものと、現実や本心の齟齬を作品の主題として扱い、活動してきた。
私の手掛ける作品は絵画だが、制作の際は、絵画そのものの構成よりも、まず初めに(特に自身の作品が、どこかに複数展示されることが決まっている場合は殊更)、それがどのような空間に置かれ、どのような順番で人の目に留まり、その展示空間全体においてどのような役割を担うのかを考える。
なぜならそれは、絵画の大きさや色彩、構図、言葉(タイトル)、配置、その存在が発する空気などによって、主題そのものを体感できる「体験的空間」を創り出すことを目標としているからだ。
そして、絵画によって創り出す、「体験的空間」を完成させるうえで最も重要なものは、その場に居合わせる他者の存在だと考えている。
ある人はその空間で目の当たりにしたことに対し、共感するかもしれないし、戸惑うかもしれない。
また、ある人は批判したり、自分とは全く関係のないことだと興味を示さず、足早に通り過ぎたりするかもしれない。
しかしそれがどのような反応であろうと、『その局面を描出することで、この世と、今を生きる私たちの偽りのない姿を見澄ましたいと願う』私にとって、他者のさまざまな反応こそが、自身の表現行為の根底にある興味であり原動力であるからだ。
ステイトメントの最後は、このように結ぶ。
『私たちの生きるこの世と、この世に生きる私たちの、救い難い程の残酷さと優しさは、いつも私の興味の主軸である。』
雛型
アクリル絵具、キャンバス
112.0x162.0cm
2019年
photo by 馬渡孝則
奨学期間中の取り組みと今後の活動方針について
奨学期間中、「新しい技法・表現の開発」、「技術の習熟度を高めること」、「活動の場所や規模の拡大」の3点を活動の主な目標として取り組んできた。
まず、初めの2点について振り返りたい。
自身にとって、自力でパレットの幅を広げることは容易ではなく、今までは、慣れ親しんだ色の組み合わせの中で、バリエーションをつけて制作をしてきたと自覚している。
しかし今回、フルイドをほとんど全色請求し、支給して頂いたおかげで、色味から発想を得て画面の内容を組み立てるという新鮮な経験を得ることができた。このような経験を基に、この先の作品にもその成果を反映してゆきたい。
また、水彩紙を媒体とした作品についても同時に研究していたが、そのことをきっかけに、メディウムにも関心が広がった。
水彩画保護ワニス、UVマットバーニッシュやヤニ止めシーラー、マットバーニッシュ、サテンバーニッシュなどを支給して頂き、作品の土台や仕上げに使用することで、質感の変化や保存について研究することができた。
これは、色材や下地材を豊富に得て、研究・制作に没頭できたことで、作品の「モノ」としての美しさや、クオリティ-の保存について意識が向くようになった結果であり、自身にとって、想定外の変化であり収穫でもあった。
3点目の「活動の場所や規模の拡大」については、奨学期間中も新たな発表の場や制作の機会を得ることができたが、そのことに満足せず、今後も精力的に取り組むべき目標と捉え、継続課題とする。
このように、奨学期間中のご支援によって得られた経験や成果は、自身の活動に深く永く影響を与え続け、作品を力づけ、励まし続けてくれるものと確信している。
最後に、このような機会を与えて下さったホルベイン社の皆様に心より感謝申し上げます。
ありがとうございました。
欠けながら満ちてゆく
アクリル絵具、キャンバス
194.0x162.0cm
2019年
photo by 馬渡孝則
プロフィール
末松 由華利 SUEMATSU Yukari
1987年 埼玉県生まれ大阪府育ち
2010年 多摩美術大学 美術学部絵画学科油画専攻 卒業
個展
2020年 末松由華利展 KURUM'ART contemporary/東京 10月20日-11月1日迄開催予定
2019年 project N 76 末松由華利 東京オペラシティ アートギャラリー/東京
2018年 末松由華利展-永遠に損なわれたもの- KURUM'ART contemporary/東京
RANDY ART HILLS vol.42末松由華利展-常ならぬ季節- RANDY/東京
2017年 末松由華利展-輪の中で考えたこと- 長野市芸術館/長野
グループ展
2020年 2020 NEW YEAR space2*3取り扱い作家小作品展 KURUM'ART contemporary/東京('18、'19)
2019年 C-DEPOT abstraction パークホテル東京/東京
2018年 C-DEPOT selections パークホテル東京/東京
FACE展2018 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館/東京
2017年 シェル美術賞展2017 国立新美術館/東京
IAG 池袋アートギャザリング2017 東京芸術劇場/東京
2016年 SICF17 スパイラルホール/東京
2014年 2014 NIIGATAオフィス・アート・ストリート 第四銀行新潟駅前支店/新潟
2008年 via art2008 シンワアートミュージアム/東京
受賞歴他
2019年 第33回ホルベイン・スカラシップ奨学生
2017年 シェル美術賞2017 島敦彦審査員賞
中条アーティスト・イン・レジデンス/長野
2014年 2014 NIIGATAオフィス・アート・ストリート 新潟商工会議所特別賞
2008年 via art2008 藤本幸三(エルメスジャポン)審査員特別奨励賞
パブリックコレクション ATAMI BAY RESORT KORAKUEN/静岡
土坂眼科医院/東京
星野リゾート軽井沢ホテルブレストンコート/長野