絵具、絵画材料のホルベイン

スカラシップ > スカラシップ・レコード > 第33回奨学生レポート > 第33回奨学生のレポート⑥ 水戸部 七絵

scholaship_v33_06.png
水戸部 七絵 
MITOBE Nanae

scholaship_v33_06a.png

Donald Trump
油絵具、麻布、木製パネル
55.0×47.0cm
2019年

顔 - I am a yellow

顔は、すべての人に等しく付随している。
それは、常に外部に向けて露出し、そのもの固有の表れである。そして、個人個人のさまざまな感情や欲望は、表情という形で現れ、時に相対する人に誤解を与え、反感を生じてしまうこともある。時にその感情は複雑にもつれ、関係性の亀裂として現れることも度々ある。

顔の造作を自身で好むとは限らない。むしろ多くの場合、自身の外見に不満を覚えている。そのため、よく見せたいという欲求から化粧、眼鏡、装飾物などで装う。また、美容整形などで、顔そのものを変貌させる場合もある。これらは、時々の流行やモードに即した変身欲求や、切実で純粋な変身願望、人体改造への激しい欲望まで含んでいる。

また私たちは、人種、民族、性別、服装など外観の違う相手と向き合う時にさまざまな問題や齟齬、誤解、軋轢を引き起こす。お互いに、「私のようではない」他者に対して、怖れが生じ、違いがある、という当たり前のことを容認できないからだ。しかしそのような、差異という至極当然の現象がその者の身体だけではなく、社会的政治的に影響を及ぼすことがある。芸能、スポーツ、政治の世界に、それが現れていることは言うまでもない。

私自身は、中学生になって制服のスカートを穿いた時に、自分が女性であることを強く意識するようになり、毎日鏡を見、化粧をし、外面の美醜にこだわるようになった。これは外から自身を認知したことで、内なる感情が意識化していったものであると思う。そのときから今日まで、鏡の中に見る私自身を拒絶したいという強い気持ちを抱えながら、私自身は形成されていった。

昨年、Maki Fine Artsの私の個展タイトルは『I am a yellow』とした。黄色人種(もちろん私自身も含めて)が制作のテーマである。作品で制作した絵画はドナルド・トランプ、マイケル・ジョーダン、マイケル・ジャクソンなどでここに“yellow”はいない。いや、“yellow”はこれらの絵を描いた“私自身”である。 この絵画は、私が抱き続けている“活き活きとした他者”への賞賛であり、共感であり、哀れみであり、可笑しみのポートレートである。

scholaship_v33_06b.png

Milla Jovovich
油絵具、麻布、木製パネル
54.0×70.0cm
2019年

制作・活動の方針

これまで、作品の性質上、画材費の負担が大きいため、常に制作費がボトルネックとなって、作品の着想や発想への足かせとなっていた。

今回、ホルベイン・スカラシップの奨学生として画材を受給できたことによって、これまで以上に自由な発想で自身の表現を追求することができた。

私の場合は、油絵具の使用量が極端に多い。
絵画を制作する上で、理想を追求するあまり油絵具を制御なく使用してしまう事、また描いたすべての作品が成功するわけではなく、失敗作も数えきれない為、年間の画材費は相当な負担となる。

しかし、今回の機会をいただけたことによって、これまで自身に重くのしかかっていた制作費という、経済的、心理的負担を軽減していただけたことは、自身のキャリアにおいて重要な時期となった。

また、自身の作品制作において、重要なテーマや方法論を探る機会となった。

過去の作品として、匿名の顔を題材とした「DEPTH」シリーズや、理想の顔、アイコン的存在を描いたシリーズなどを発表してきたが、この期間中は、これまでとは違う尺度で自身の制作と社会との関わり合いを意識する事ができた。
例えば、各国のニュース、SNSから流れる他国の情報をチェックし、絵日記を付けた。絵日記を描くことは小学生以来であるが、時事的な事柄、文脈と絵が一つの画面に構成される要素は高度な技術である事を発見した。

作品制作における重要なコンセプト、テーマといった、内容面に純粋に向き合うことのできたこの期間は、今後のキャリア形成においても重要な時期となったことは間違いない。

こうした期間を糧に、今後、再びやってくるコストの問題とも向き合いながら、自身の表現を研鑽し、新しい境地を開拓するために、さまざまな方法論をテストしながら、作品を発表していきたいと思う。

scholaship_v33_06c.png

Michael Jackson
油絵具、麻布、木製パネル
70.0×95.0cm
2019年

プロフィール

水戸部 七絵 MITOBE Nanae

1988年 神奈川県生まれ
2011年 名古屋造形大学 造形学科洋画コース 卒業

個展
2019年 I am a yellow  Maki Fine Arts/東京
2018年 DEPTH —Blue Pigment—  gallery N/愛知
2016年 水戸部七絵 展  gallery21yo-j/東京
     DEPTH —Tranquil Pigment—  gallery N/愛知
     APMoA Project, ARCH vol.18 DEPTH —Dynamite Pigment—  愛知県美術館/愛知
2014年 ABRAHAM  LOOP HOLE/東京
     水戸部七絵 個展  現代HEIGHTS GALLERY DEN .ST/東京

グループ展
2019年 水戸部七絵|髙山陽介 顔の奥行き  関内文庫/神奈川県
2019年 高橋コレクション展 アートのふるさと  鶴岡アートフォーラム/山形県
2018年 高橋コレクション 顔と抽象――清春白樺美術館コレクションとともに  清春白樺美術館/山梨
2017年 本を、つくってみた-アーティストブックの制作と展示- 
       NADiff a/p/a/r/t/東京、void+/東京、Gallery TURNAROUND/宮城
     アブラカダブラ絵画展  市原湖畔美術館/千葉
     千一億光年トンネル  ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション/東京
     美術館ワンダーランド2017 ~イロ・モノノハコニワ~  安曇野市豊科近代美術館/長野
     ART in PARK HOTEL TOKYO 2017  パークホテル東京/東京
2015年 赤のコルパー  T&S GALLERY/東京
2014年 りこうなハンス  タリオンギャラリー/東京
     ゲルオルタナ オープンスタジオ  ゲルオルタナ/東京
2013年 掲示  日本大学藝術学部江古田校舎/東京
     Since  T&S GALLERY/東京
2012年 460人展  矢田ギャラリー/愛知
     3331アンダパンダン・スカラシップ展 vol.2  アーツ千代田3331/東京
2011年 密度Ⅱ  アートラボあいち/愛知
     イコノフォビア-図像の魅惑と恐怖-  愛知県美術館ギャラリー/愛知
     BLUMEN GARTEN  LOOP HOLE/東京

受賞歴他
2017年 NHK 日曜美術館アートシーン  出演
2016年 阿佐ヶ谷美術専門学校イメージクリエーション科  非常勤講師
     美術手帖 2016年12月号  あなたの知らないニューカマー・アーティスト100  掲載
2014年 砂漠のスケッチ 滞在制作  Black Rock City/ネバダ[アメリカ]
2011年 千代田芸術祭2011 アンデパンダン  O JUN 賞

パブリックコレクション 高橋コレクション

http://nanaemitobe.com