絵具、絵画材料のホルベイン

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若林 菜穂 
WAKABAYASHI Naho

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湧水
油絵具、キャンバス
130.0x162.0cm
2020年

制作について

静かに心を展開する窓口として、絵画を考え、制作しています。
風景や命のないものは、それ自体が意思を持って、私に何かを訴えかけてくることはありません。しかし、そういった、意思のないもの、あるいは曖昧なものから、私は符号を読み取ります。それは私の側がそう捉えたにすぎませんが、目の前に見る対象がなければ、そもそもそのように考え、閃くこともなかっただろうと言えます。また、対象それ自体だけでは、この埒外の符号は生じません。自分と対象とが触れるその時に生じ、受け取ることができるものが沢山あります。そして埒外の部分は、ほぼ私の想像に委ねられている領域で、ある意味際限なく広く自由です。私の内と、内の外にあるものは、矛盾せずに供にあります。目の前の対象と自分の間になんらかの反応が起きること、その特定の時間について、平面作品により表現しようと試みています。

私が反応するきっかけの一つに、目に見える対象が挙げられます。何かを見たとき、「これは、私の心をあらわしているようだな」と思う事があります。
絵画における喩えは以前からあり、正確に読み解くことは共通の認識や知識によって可能です。生活している中で具体的に目に見えることから想像が展開することと、絵画あるいは作品においての喩えを正確に読んでいくこと。この二つは似て非なることのように思います。私が絵画の中に持ち込む具体的なモチーフには、私による選択の意思はあるものの、必ずしも正確な意味合いを読むことを求めるものではありません。私の主題は心身が世界に触れたとき、何かが生じ得ることそれ自体です。大体は、心とぴたりと重なるような、そういったものを見たとき、出会ったとき、それが制作の動機になります。

目にする物から、それぞれがいかように符号を受けとってもよいのです。共有し得ること、し得ないことがあり、そのことは私にとって興味深く、面白いことです。それぞれが、個を以てして、展開していくその時間に価値があると考えています。その動きを発生させる媒体として、絵画のある空間を目指しています。

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スコール
油絵具、キャンバス
116.0x91.0cm
2020年

奨学期間中の取り組みと今後の活動方針について

奨学期間中の一年に関しては、材料に関して常に不足なく制作することができたので、ストレスがありませんでした。今までも必要に応じて資金繰りをし、画材を購入していたわけですが、単純にそのことについて割いていた労力が奨学生期間中ほぼなくなるわけです。ありがたいことです。

わたしの制作に欠かせないのは、油絵具、キャンバス、筆などです。私にとってはすっかり馴染みの道具でありながら、この時代において、油絵具と筆を使ってキャンバスに描く行為は、一般的ではないのだと思います。今回のスカラシップ期間を通して、その素材を私が自ら望んで選択していることを再度認めました。絵具は頭の中にあるイメージと現実の仲介をする素材だと思っています。特に油絵具は長い間湿った状態を維持することができるので、頭の中にある不確定なイメージをゆっくりと立ち上げることを、手助けしてくれます。また、油絵具は光をうまく反射します。透明度や質感、層の厚みによって光の反射は変化し、その多彩な色の輝きが、絵を描くときの手助けになります。目の前の対象から影響を受け、イメージは変わっていきます。またそこに生じる頭の中のイメージを、私は時に油絵具をつかって、外に表そうとします。そのように表現することを通して、絶えず外側と内側と、有形と無形を、実にシームレスに往来しているように思います。

ホルベイン・スカラシップは表現すること、表現について考えることを、一年間後押しして下さいました。今後もこの油絵具という素材の扱いと表現の方法について、探求を続けていきます。

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空の中程
油絵具、キャンバス
116.0x91.0cm
2020年

プロフィール

若林 菜穂 WAKABAYASHI Naho

1991年 東京生まれ
2017年 武蔵野美術大学 造形学部油絵学科油絵専攻 卒業

個展
2018年 うつせる窓  小杉画廊/東京
     行く先々  数寄和/東京
2016年 予定にない日  sanka/東京
2015年 fix the images  TANNE/東京
2014年 メビウスの切れ目  lamp/東京

グループ展
2020年 心覚えをたどる  hatoba cafe/gallery/京都
2018年 Slide,Flip, and Turn /スライドフリップ アンドターン
       -7人のアーティストブック展-  武蔵野美術大学美術館図書館/東京
     木曽ペインティングス  木曽路美術館、本陣/長野('17)
     清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレ  清須市はるひ美術館/愛知
2017年 アタミアートウィーク  ツイキレンタルスペース、青い屋根の平屋/静岡('16)
     第40回 東京五美術大学連合卒業・修了制作展  国立新美術館/東京
     武蔵野美術大学卒業・修了制作展  武蔵野美術大学/東京
2016年 sound of silence  武蔵野美術大学構内/東京
     第9回GAW展 路地から路地へ 2016in日坂  藤文・かえでや2階/静岡
2015年 golde nage  武蔵野美術大学/東京
2014年 table cross  TURNER GALLERY/東京
     □□□  鑓水美術館/神奈川
2013年 トリアグラム  武蔵野美術大学/東京

受賞歴他
2019年 第33回ホルベイン・スカラシップ奨学生
2018年 清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレ  入選
2016年 2016年度武蔵野美術大学卒業制作展  研究室賞

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