色材の解剖学⑧ 油絵具のホワイト
色材の解剖学では、色材に関する基本知識から専門的な内容まで制作に役立つさまざまな情報をご紹介します。
油絵具のホワイト
初めて油絵具を買いに画材店に行って、ホワイトの種類の多さにびっくりした経験はないでしょうか。
合成顔料や展色材に関する研究は、19、20世紀に入って急速に進みました。歴史的に見ると、いちばん古いのはシルバー ホワイト。そしてジンク ホワイト、チタニウム ホワイト、パーマネント ホワイト、セラミック ホワイト、クイック ドライング ホワイトの順です。ホルベインでは、常時6種類の描画用のホワイトを揃えています。以下にそれぞれのホワイトの特長と性質、用途を紹介します。
■中描きに適した〈シルバー ホワイト〉
中世〜近世の絵画で、重要な白だった鉛白をベースにしたホワイト。
黄みで温かみがある色調が特長です。顔料の鉛白の有害性と、黄ばみやすさ、硫黄を含んだ絵具やガスでの暗色化懸念から、現在では主流を外れていますが、乾燥が早くしかも堅牢で上層をしっかり受け止める長所があり、描き始めから中描きに使われます。着色力が低いので、混色用にも適しています。
■上描き用として愛用者が多い〈ジンク ホワイト〉
シルバー ホワイトに代わるホワイトとして開発。
青みのあるホワイトで、混色時の発色が美しいのが特長です。顔料の亜鉛華の作用で、上に塗る絵具に亀裂・剥離を起すため地塗り・下塗りには使用できませんが、上描き用として今も画家に愛されているホワイトです。
■塗りつぶし、ハイライト表現に適した〈チタニウム ホワイト〉
20世紀に開発された顔料、チタン白を用いたホワイトです。
着色力、隠ぺい力は6種類中最大です。うっかり混ぜすぎると「色を喰ってしまう狼」と嫌う人もいますが、薄塗りでの純白表現、ハイライト表現にすぐれています。
■初心者が使いやすい〈パーマネント ホワイト〉
強すぎるチタニウム ホワイトの着色力、隠ぺい力を抑えた、使いやすいホワイトです。
混色制限も毒性もないため、初心者が扱いやすいホワイトのベストセラーです。
※SFとEXの違い
SFはポピーオイルを使用し、EXはサフラワーオイルを使用して製造してあります。
■現代科学が産んだホワイトの傑作〈セラミック ホワイト〉
ホルベインが1990年に開発した、新素材セラミック(チタン酸ストロンチウム)を使ったホワイトです。
混色時の色みの美しさ、黄ばみの少なさ、群を抜いた安定性…。全ての点ですぐれた万能のホワイトです。全ホワイト中、最も青みが強く白が際立って美しいため、一度使ってファンになる人も多いホワイトです。
■速乾性のホワイト〈クイック ドライング ホワイト〉
チタン白、白亜を顔料に開発された速乾性のホワイトです。
薄く塗れば4〜6時間で乾燥。強固な塗膜はナイフで削るなどのテクスチャー作りにも向いています。
ジンクホワイトに近い透明性があり、黄変も少ないホワイトです。
人間の眼は、青みのある白色をより白く感じます。計器測定で白色度の最も高いのはチタニウム ホワイトですが、眼で見るとセラミック ホワイトがいちばん純白に近いと感じます。絵具は技術だけでなく、画家の感性で磨かれた製品です。着色力、隠ぺい力、白色度、透明性といった性能は数値で示せますが、各ホワイトには数値では測れない魅力があります。「色を薄める」「明度を上げる」「隠蔽する」「トーンを落とす」「ハイライトをつける」「下地に塗る」など、ホワイトは画家が最も頻繁に用いる絵具です。それぞれのホワイトの個性や魅力を愛する画家がいる限り、メーカーは全てを供給していく義務があるようです。
※(上)着色力の比較:原色(クリムソン レーキ)に2倍量の各ホワイトを混ぜ、淡くなる度合いを比較したもの。
(下)隠ぺい力の比較:原色(クリムソン レーキ)を塗った上に、筆で各ホワイトを同じ厚みに塗り、透明感を比較したもの。
色材の解剖学は順次資料室へ収録していきます。