絵具、絵画材料のホルベイン

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3種の専門家用油絵具の特性とその可能性

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作品やそのメディウムが複雑化する現代において、「油絵具」が持つ魅力と可能性とはどのようなものだろうか?
専門家用の絵具を開発し続ける画材ブランドであるホルベインが提案する3種の油絵具の設計思想について話を聞いた。

「油絵具」が持つ思想

創業119年目。専門家用絵具で国内シェアのトップを走り続けるホルベイン株式会社。その絵具は、クオリティや安定性の面で高く評価され、日本そして海外でも多くの人々が愛用している。また1985年からは、独自の奨学制度「ホルベイン・スカラシップ」を立ち上げ、これまでに1000名以上の作家に多様な画材や絵具を提供している。会社としてのその活動には、日本の絵画の文化への多大な貢献を見て取ることができるだろう。

作品の形態が多様化する現代に対応し、様々な色材を開発・販売してきた同社にとって、「油絵具」という伝統的な画材はどのような意味を持つのだろうか?同社の技術部門のトップを長らく務め、現在も相談役として関わり続ける小杉弘明はこう語る。

「油絵具は、ほぼ乾性油と顔料のみでできています。展色剤がそのまま固着成分であるというきわめて単純なものですが、それだけに奥が深いのです。世界的にみると顔料メーカーが統合・淘汰され、色の選択肢が少なくなりました。このため各絵具会社は絵具のつくり方そのもので差別化を図ろうとしています。同じ顔料でも、分散が悪い状態だと発色が鈍くなるので、顔料を丁寧に分散させることで、本来の色を出していきます。その分散技術へのこだわりと製品の安定性がわれわれの強みです。」

その意味では、樹脂そのものに選択肢があり、添加剤の豊富なアクリル絵具などに比べて、油絵具は各メーカーの哲学や技術の違いを端的に示すことのできる製品だと言えるだろう。

更新される絵画の可能性

しかしながら、近年では油絵具を取り巻く学校教育の環境も変化しつつあるという。「ゆとり教育の導入により油彩画を学ぶ時間も圧倒的に減少し、乾燥が速くて不透明なアクリルガッシュが使われるようになり、そのせいか、直描きのようなアラ・プリマ技法で描く若い人が多くなった気がします。油彩画技法がないがしろにされた結果、絵に深みがなくなってしまうのは残念に思います。」

そのような時勢の流れのなかでも、同社は現場の要望に応えた油絵具を数多く開発・販売している。「ホルベイン油絵具」は、同社のもっともスタンダードな製品だが、その特徴について小杉はこう語る。「この製品は、粘度や色の管理において、世界的にも例がないほど安定しています。2種の方法で粘度を測定し管理し、標準色や前後のロットの色とも比較して色づくりを行っています。」

また、ハイレベルな作家を対象とした高品位の絵具「ヴェルネ」については、「古くからある顔料は良質のものを厳選し、さらに有機顔料も最新のもので混ぜ物をせずにつくっています。従来の絵具に対して分散機自体が異なりますので、透明感が良く、深みのある色調を出すことが可能になった」と自負する。

そして「デュオ」は、「水で溶解できて、溶剤フリーで描ける油絵具」をコンセプトに、どんな環境でも使うことができる、手間のない絵具として設計されている。「水で洗うことができて、誰にでも使いやすい新しい時代の油絵具がつくりたかった。」

このような多種多様な新しい油絵具の開発の一端を垣間見ることは、絵画がそのようなマテリアルに支えられていることを再認識する機会である。油絵具の更新は、新たな絵画の誕生へとつながっているのだろうか。その動向からは目が離せない。

もっとも汎用性の高いスタンダード
ホルベイン油絵具

4.黒もひとつの色として使ってみる

全166色。厳格な品質管理のもと、つねに品質改良を続ける同社の基準となる専門家用絵具。タッチを活かしたアラ・プリマ技法や古典的な透明技法など、様々なスタイルに対応する。

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画家の理想を追求したハイエンド
高品位油絵具ヴェルネ

高品位油絵具ヴェルネ

全40色。厳選された顔料と油でつくるピュアな絵具。ミクロン単位で粒子サイズを調整している。「ヴェルネ」で描かれた髙橋雅史《Higos y Uvas》(2011)。グレーズのような透明性を生かした技法で描かれた作品にこそ威力を発揮する

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水も使えるハイブリッド
水可溶性油絵具デュオ

水可溶性油絵具デュオ

全100色。溶剤フリーで絵を描くことができる。手入れが簡単で安全性に配慮された油絵具。細く濃い線描によるハッチングや、水独特の流れや滲みを生かした画肌などを表現することに向いている。油彩表現の可能性をさらに広げる。

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小杉 弘明さん

小杉 弘明(こすぎ・ひろあき)
1954年生まれ。77年にホルベイン工業(株)入社。
技術部で油絵具の「デュオ」の開発などを担当し、技術製造本部長、常務を務めた。


美術手帖 19年2月号

掲載元:
美術手帖 19年2月号
文/編集部
撮影/上澤友香(人物・画材を除く)