色材の解剖学㉑ メディウムとワニス【アクリル絵具・応用編】
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メディウムとワニス【アクリル絵具・応用編】
アクリル絵具と混ぜるメディウム
油絵具につや出し、つや消しなど効果を与える専用の画用液があるように、アクリル絵具にも豊富なメディウムがあります。今回はアクリル絵具のメディウムを紹介します。
どれも水溶性で、普通のアクリル絵具と同じように水で洗ったり薄めることができます。
■光沢の調整に使うメディウム
つや出し用のメディウムが『グロス メディウム』です。アクリル絵具に使われている固着成分そのもので、絵具に混ぜるとつやと透明感が増します。その反対に、つやを消すのが『マット メディウム』です。さらさらとした液体で混ぜると粘度が下がります。
『ペンチング メディウム』はアクリル絵具を柔らかくする描画用メディウムです。アクリル樹脂とうすめ液を調合したメディウムで、固着力を弱めず絵具を薄められます。
透明感のある盛り上げには『ジェル メディウム』がおすすめです。粘度が高く、つやのある厚塗りの盛上げや筆のタッチを活かしたいときに使います。接着力が強いため、コラージュ技法の接着剤としても使用できます。
ジェル メディウムの仲間は、効果や表現にあわせていくつかの種類があります。それぞれの粘度や乾燥後のやせの少なさの違いを図にしました。
『ジェル メディウム ハイソリッド』は乾燥後もエッジがシャープに残り立体的な盛り上げが作れます。
『ジェル メディウム マット』はすりガラスのように半透明のつや消しの表面に仕上がります。
ほかにも、低粘度で流動性が高まる『ジェル メディウム ソフトボディ』、より高粘度で分厚い盛り上げが作れる『ジェル メディウム ヘビーボディ』があります。
『クリスタル ジェル メディウム』は、仕上げワニスの『クリスタル バーニッシュ』のジェルメディウムタイプです。トロっとした粘度で、画面上に塗布すると分厚い保護塗膜になります。絵具を混ぜても使えます。
■技法に応じて用いるメディウム
絵具に混ぜることで乾燥を遅らせるメディウムが『リターディング メディウム』と『リターダー』です。
アクリル絵具は薄塗りで5分程度で乾きますが、これらのメディウムを混ぜると30分ほど経っても乾かず絵具を動かすことができます。筆あとの残らない平滑な面をつくったり、ぼかしやグラデーションに適しています。
『リターディング メディウム』はトロっとした高粘度タイプ、『リターダー』はさらっとした低粘度タイプです。アクリル絵具に20~30%混ぜて使用します。シルクスクリーンに使用する際には、30~40%ほど混ぜると目詰まりなくスムーズに使えます。
『ペンチング ソルベント』は固着剤の入っていないうすめ液です。絵具の伸びが良くなり、細かい線描やおつゆ描きの際に絵具がムラなく広がるようになります。
アクリル画のワニス
アクリル画はほこりやタバコの煙などで画面が汚れてやすいので、油絵と同様に完成後のアクリル画には画面保護のためにワニスを施すことをおすすめします。
■水性タイプのワニス
アクリル画用のワニスとして、筆で塗る水性のワニス3種類があります。
『クリスタル バーニッシュ』は乾くと透明で光沢のある強固な耐水性の塗膜となり、タック(べたつき)が残りません。木片、紙ねんど、素焼きなどの面のつや出しワニスとしても使用できます。
『マット バーニッシュ』はクリスタル バーニッシュにつや消し剤を配合したワニスです。乾くと半透明でつや消しの耐水性の塗膜となり、クリスタル バーニッシュとの混合で、つやの調整ができます。
『屋外用トップコート』はアクリル画完成後の野外耐水・画面保護コート剤として高い効果を発揮します。壁画・シャッターペイント・立体造形作品等、屋外に展示する作品の保護におすすめです。耐候・耐水性に優れており、クリアな塗膜で作品に優れた光沢を与え、ほこりの付着も防ぎます。
■スプレータイプのワニス
つや出し用の『グロス バーニッシュ』、つや消し用の『マット バーニッシュ』、半つや用の『サテン バーニッシュ』があります。
スプレータイプは、ペトロールやテレピンで除去して塗り替えることができます。
油性ペンの種類によってはインクがにじむことがあるので注意してください。つやを調整したいときは、吹き付ける回数やマットとグロスの重ね掛けで調整可能です。
アクリル絵具のほかに、油絵具、水彩絵具、テンペラ、粘土類、色鉛筆、パステル類などの表面保護に使えます。
アクリル絵具を除去するメディウム
乾いたアクリル絵具を除去する製品には、剥離剤の『リムーバーWS』と洗浄液の『ストロング クリーナー』があります。
筆やパレットに固まってしまったアクリル絵具にはトロっとした高粘度の『リムーバーWS』、軽いアクリル絵具の汚れやハンドピースなど細かい機材に詰まった場合にはさらっとした低粘度の『ストロング クリーナー』がおすすめです。
リムーバーWS
ストロング クリーナー
色材の解剖学は順次資料室へ収録していきます。