アーティスト インタビュー vol.5「香月美菜」

次代を担うアーティストの背景、作品に対する思い、メッセージを伺い、その素顔に迫る「アーティストインタビュー」。今回は第32回ホルベイン・スカラシップ奨学生であり、アジア各国で活動し注目を集める香月美菜氏にお話を伺いました。
香月美菜
青には人の深層心理にリンクしやすいという特性があり、私の精神性を表現する上で適していると考えました。視覚ではない知覚を通して見ていただきたいです。
また、私には姉がいて、こどものころ母親が服を買ってくれるときに、同じデザインで違う色の服を買ってもらう事がよくありました。そして、姉は暖色、私は寒色を割り振られていたので、自然と青色が私の色だと思うようになり、成長した今でもその感覚は残っています。青以外の色とは違い、青は物心つく前から既に私の中にあったので、余計なことは考えず、今の表現を追求することができました。
元々は油彩を学んでいたんです。大学院に進学してから、もっと絵具に厚みをもたせたり削ったりしたいと思うようになりました。油絵具だと乾くのに時間がかかりますし、なかなかそういう表現ができない。この表現には透明絵具を使うのですが、ホルベインの社員の方から、油絵具よりもアクリル絵具の方が黄変せずにより透明な表現ができると聞き、実験するようになりました。

最初は1色でグラデーションを作っていました。すると濃淡の中でも綺麗な部分とそうでない部分がある、そうしたらその中にある一番きれいな色はどれだろう、というところから混色でグラデーションをつくるようになりました。アクリリックカラーは繊細で、自分の欲しい色合いや透明度はこれじゃないと出ないとわかっているので愛用しています。
アクリリック カラーのターコイズ ブルー、フタロ ブルー イエロー シェード、フタロ ブルー レッド シェード、インダスレン ブルーの間で17色のグラデーションを作り、その17色にそれぞれ濃淡をつけて今は250色以上を作っています。今後は300色ぐらい作れるようになりたいですね。

海外では気温、光の色などが違ってきます。日本と同じ手順で制作しますが、光が違うと私が認識する色が変わってきますので、作品のために調合する絵具の色も変わります。気温によってはメディウムの乾いた質感も、寒いとなめらかに、暖かいとごつごつしたいかつい感じに固まります。個人的には暖かいところが好きです。そういった作者の意思と反した仕上がりになるのも面白いですね。
高校生の時に初めて抽象画に触れて好きになりました。その後も印象派、アメリカの抽象表現、近代から現代の日本絵画などと順に好きになっていきましたが、特に興味を持ったのはキャンバスの上で絵具が重なり、混ざり、削られた表情でした。そして自分の方法で「絵具」を表現したいと自然と思うようになり、今の表現にいたりました。
作家の意思や感情より、見る側がどういうふうに感じるか、精神とリンクするかを大事にしたいと思っています。絵具からだれがどのように思うかはその人の自由。でもおもしろいことに、そういった自分が無駄だと思ってそぎ落とした表現にたどり着いたとしてもどうしても作家性は出てくる。でも自分を出すならそれぐらいでいいと思います。
スカラシップ生となった2017年から今まで、コンセプト自体は変わっていませんが、あの頃は、アートという枠を意識してコンセプトを大きく見せようと見栄を張っていた気がします。今は「絵具を見る絵画」という自分のコンセプトに対して忠実に余計なことに意識を向けず、真っ向から向き合っている気がします。

香月 美菜
KATSUKI Mina
個展
グループ展
フェスティバル
アートフェア
レジデンス
受賞歴他