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色材の解剖学⑯ フレスコ画

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色材の解剖学では、色材に関する基本知識から専門的な内容まで制作に役立つさまざまな情報をご紹介します。

 

フレスコ画

永遠の絵画

漆喰の壁に彩色する画法がフレスコ画(湿式画法、真正フレスコ)です。通常、顔料を定着させるためには糊材を使いますが、フレスコ画は水しか使いません。漆喰を塗った直後の壁に水で溶いた顔料を塗ると、水はやがて蒸発しますが、顔料は染み込んだまま残ります。漆喰の原料である消石灰(水酸化カルシウム)は、空気中の炭酸ガスを吸って石灰石(炭酸カルシウム)に変化する性質を持っているため、顔料を包んだ形で壁が硬化します。この化学反応を応用したのがフレスコ画です。
よい状態で制作されたものは約1ヶ月でかなり硬化が進み、1年経つと表面が硬化しますが、硬化が完全に終わるには100年かかるといわれています。硬化した石灰岩は大理石と同じ組成です。フレスコ画が「天然の色大理石のように美しく堅牢だ」と評されるのは誇張ではありません。ある人は「石の中に閉じ込めた顔料による永遠の絵画」と呼びますが、まさにその通りです。

フレスコ画を描く

フレスコ画に挑戦してみましょう。壁に描くのは大変なので、石膏ボード(F6)を使ったミニフレスコ画の描き方を紹介します。
用意するものは、石膏ボード(F6)、石灰、砂(寒水)、軽量カップ(180ml)、洗面器、コテ、筆、顔料、バケツ、パレットです。

1. 石灰モルタル(漆喰)づくり
石灰モルタル(漆喰)づくり 用意するもの
石灰モルタル(漆喰)づくり 用意するもの
石灰モルタル(漆喰)づくり①

洗面器に軽量カップ2杯ずつの砂(寒水)と石灰を入れてゴム手袋を着けた手でよくかき混ぜます。
アルカリの強い石灰を素手で触ると肌が荒れるなど危険です。必ずゴム手袋を着用してください。

石灰モルタル(漆喰)づくり②

混ぜ終わったら、軽量カップ半分の水を加えて練ります。

石灰モルタル(漆喰)づくり③

さらに、軽量カップ半分の水を徐々に加えながら練り込んでいきます。手で触ってみて、団子ができるくらいの硬さになったらモルタルの完成です。

2. 下塗り

 

下塗り①

新聞紙を敷き石膏ボードを平面に据えます。水を含ませたタワシで石膏ボードを2回湿らせます(2回目は5分後)。

下塗り②

その上にコテを使ってモルタルを塗っていきます。塗り残しのないように隅からしっかりとモルタルを乗せ、周辺から塗っていきます。厚く塗らず、薄くのばしながら全体に平均して塗るようにします。

下塗り③

塗り終わったら5〜10分間置いて、たわしでたてよこ交差するよう軽く櫛目を入れます。終わったら最低1日は乾かします。
POINTO この後の上塗りを行う際にモルタルを食いつきやすくするため行います。全体に軽く櫛目を入れてください。

3. 上塗り

 

上塗り

下塗りした面をもう一度水で湿らせ、その上に下塗りと同じ要領で隅からしっかりとモルタルを塗ります。櫛目は入れません。モルタルに手をあて、石灰の白がついてこないくらいの状態になったら描き始めます。

4. 描画

パレットで顔料を水に溶きます。描き始めはモルタルが柔らかいので、柔らかめの筆を使ってゆっくり、丁寧に描いていきます。同じところばかり描画せず、全体的に色を置いていくようにします。しばらくすると、色がぐんぐん吸い込まれる様になってきます。画面が猛烈に水を欲しがりますので、時々霧吹きで水を補給するとよいでしょう。混色や塗り重ねは自由です。顔料と水の吸い込みが悪くなり始めたら、描き終えるようにします。描き始めの時間や描いていられる時間は季節によって大幅に異なり、夏季で40分程からの4時間程、冬季で1時間半程からの6時間程です。

フレスコ画の技法

『最後の審判』(1536-1541年)
ミケランジェロ・ブオナローティ

実際に描いてみればわかりますが、フレスコ画は漆喰が湿っている間に描き上げなければなりません。そのため、画家は1日ごとに塗り継ぎによって描き進めます。この技法をジョルナータ(伊語で「1日分」)と呼びます。
フレスコ画で最も有名な作品のひとつは、ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂に描いた「最後の審判」です。彼は弟子を使わず、壁塗りから描写までひとりでやってのけました。漆喰の状態はその日の温度、湿度、さらに季節に応じて変わってきます。顔料は乾くと明るい色調になりますが、塗ったときは暗く沈んだ色調です。1日に描けるのは1㎡満たない一部分に過ぎません。乾くと描き直しはできません。ミケランジェロはジョルナータに全精神を集中させ、常に全体をイメージしながら、部分部分をジグソーパズルのピースのように完璧に仕上げて「最後の審判」を完成させたのです。
フレスコ画はミケランジェロ以降下火になっていきました。持ち運びのできる新しい絵画(油絵)が出現したこともありますが、フレスコ画に費やされる膨大な精神力と体力、硬化するための悠久の時間を、画家とパトロンと社会が敬遠したのかもしれません。

ホルベイン専門家顔料

専門家顔料

石灰は強いアルカリ性を持っているため、フレスコ画にはアルカリに弱い顔料は使えません。ホルベインの顔料ラベルには耐アルカリの有無が記されています。 使用の前に1度ご確認ください。
また本文で紹介した「フレスコ画の描き方」は初歩です。詳しくは専門書をご覧ください。



色材の解剖学は順次資料室へ収録していきます。