アーティスト インタビュー vol.16「やましたあつこ」
次代を担うアーティストの背景、作品に対する思い、メッセージを伺い、その素顔に迫る「アーティストインタビュー」。
Vol.12からは第35回ホルベイン・スカラシップに選ばれた奨学生のインタビューをお届けしています。
その第5回目は、さまざまな活動をされる、やましたあつこさんにお話をうかがいました。
将来に向けて
―やましたさんはいつ頃から絵を描き始めましたか?
気付いた時にはもう保育園で絵を描いていて、それが楽しいと感じていました。
工作は苦手でしたが絵は単純に好きで、家でもずっと描いていました。
―本格的に画家になろうと意識したのはいつ頃ですか?また、そのきっかけは?
中学生の頃から思っていました。
小さい頃から絵を好きで描いていて、小学生の時には、将来は絵の仕事をするのだと、なんとなくイメージしていました。
母が家で仕事をしていたので、サラリーマンのように会社に勤めて働くという概念がなく、日常の続きで仕事というものがあったので、母のように自分が得意とするものを仕事にしたいなと、ぼんやり思っていました。
中学生になって美術部で油絵を描き始めた頃、その時はイラストも描いていて、イラストやデザインのような仕事がいいのか、美術館に飾られるような絵の仕事がいいのか、中学生が考える仕事のイメージではありますが、悩みました。
描く工程も違うし、描くモノも違うし、イラストと油絵ってやっぱり違うので、どっちが自分に合っているのかなと。
それで、大きいことがしたいなって(笑)
―正直ですね(笑)
子どもによくある、ビッグになりたい!っていう気持ちで、美術館のような大きな場所で展示できる人間になりたいなと。
映画やドラマで、画家が高い地位にいるのを見て、私はこれになるぞ!ビッグになるぞ!っていう(笑)
―もしかしたら、だからこそ自分の描きたいことを描くことができるのかもしれませんね
私は人と合わせたくない、合わせられないというところがあって、合わせようとすると辛く感じてしまって……。
自分が本能的にいいなと思うことしかできないです。
―その気持ちで画家を選ばれたのですね
マンガ家にもなりたいなと思っていましたが、コマ数が多すぎて……(笑)
―コマ数(笑)
漫画を描くとなると、表紙絵があって、コマがあって、ストーリーがあって、いろいろなことを考えて作る必要があります。
その工程の中だと、私は表紙絵が一番描きたくて、1枚で勝負できるものがいいことに気づきました。
1枚に渾身の力を込めて、それを見てほしいタイプなんだなと、イラストや漫画を描いてみて思いました。
そうなると画家だろうと。
―それからずっと油絵を描いてこられたのですね
そうですね。
美術部の先生に画家になるにはどうすればいいのか相談したら、まずは美大だと教えてもらい、美大に行くなら藝大だと言われ、よしっ!藝大に行くぞ!と(笑)
最初は藝大に受かりませんでしたが、とにかく東京に出なくては、という気持ちが強くて、まずは別の大学に入りました。
実家がある町は閉塞感のある田舎で、親に画家になることを反対されていたこともあり、「とにかく環境を変えなきゃいけない、藝大はまた次に受ければいい」と思って東京に出ました。
―すごい行動力ですね!
よく驚かれます。将来について、母とはよく対立していました。
負けたら母のコントロール下に置かれ、普通の大学に行って、普通の会社に入って、普通の人になって終わってしまうと思ったので。
―やましたさんはとても意志が強く、行動力のある方なのですね
失礼かとは思いますが、作品はふんわりとした柔らかいイメージだったので、作品とご本人とのギャップに少し驚きました
よく言われます(笑)
実際に会うと作品でイメージしていた人と違うと(笑)
人間の可能性
―作品はどのようなイメージで描かれているのでしょうか?
自分でお話を作って、その中に入って、そこで見たシーンを描いています。
一人っ子だったので一人遊びが多く、自分の世界が頭の中で構築されていました。
また、幼少期にいじめや病気もあって、その世界に没入することも多く、頭の中のそこで暮らしているという感覚があり、そこにある景色や話のシーンを描いています。
それがいちばん自分を表しているものだと思い、大学生の頃にモチーフとして描き始めました。基本的にはその世界をモチーフにして描いていますが、自分の興味があるものをテーマにしています。
現在は精神医学に興味があり、その中でも『パラフィリア(性嗜好)』というものに興味を持っています。
人は同性を愛することもありますが、私はそれに対して小さい頃から違和感がなく、普通にあるものだろうと思っていました。
人間同士はもちろん、動物や植物に対しても同じく恋愛的に愛を育むこともあるのではないかと思い、本を読んだり調べたりして『パラフィリア』を知りました。
例えば、身近にある『ペット』は、人間と動物との関係は主従関係に近いと思いますが、動物性愛はそのような関係ではなく、対等なパートナーシップの関係にあります。
私にはわかりませんが、その人達には動物が考えていることを感じ取ることができ、言葉ではないコミュニケーションを取ることができます。
私は、それは人間の可能性であり、その人達自身が動物性愛であることに気付いたことは正直であった結果であり、それができる人間という存在が純粋にすごいと思いました。
また、ある植物性愛の方は、対等で平等な関係にならない限りコミュニケーションがとれないと言っています。人間は生物の頂点にいると無意識に思っていますが、死んだら肥料になって植物が育つもので、自身が循環しているものの中の1つでしかないことをよく理解していなければ、対等で平等な関係を築くことはできないと。それは人間同士でも言えることで、それを当たり前のように理解し、できていることにとても魅力的に感じていて、私の作品は人も植物も動物もすべてが対等で平等な世界を描いています。
昔から『人間』という存在に興味はあって、今でいう『多様性』という言葉が一番近いかもしれませんが、それよりももっと広いものを表現しています。
―ステイトメントや他のインタビュー記事などにも『パラフィリア』について触れられていましたが、実際にお話を聞くとより作品のことが理解できて、やましたさんの心の温かさが作品に表れているよう思いました
『パラフィリア』について興味を持たれたのは最近のことなのでしょうか?
小学生の頃から、純粋な疑問として持っていて、ネットや本で調べていたりはしていました。
秘密めいていて、子供心におもしろく感じていたように思います。ただ、これをひとつのテーマとして突き詰めようと思ったのは、ここ2年くらい前からです。
―女性が描かれていますが、こちらはモデルとなる方がいらっしゃるのでしょうか?
頭の中にある世界に登場する人をモデルにしています。
基本的に私は俯瞰してみているような存在で、その目線で絵を描いています。
―現在は、画材を油絵具から水彩絵具に変えられていますが、何かきっかけがあったのでしょうか?
10年以上、油絵具でずっと描いてきましたが、自分のコンセプトがわかってきた中で、油絵具は使いやすすぎると感じるようになりました。
例えば、他の方の絵を観て、描き方をマネしようと思ったら、ある程度真似できますし、「こういう絵だったら描き方こうだよね」といった、コントロールできるようになってきたことが、かえってつまらなくなってきてしまいました。油絵具で自分がやりたいことを出し切ったような感覚です。
私は飽きを感じてしまうと、すぐ次に移りたくなるタチなので、やめるわけではないですが、油絵具はいったん置いておこうと思いました。
それからコピー用紙にドローイングをしはじめ、それが思いのほか良く感じました。
ただ、コピー用紙では描きたくないなと思ったので、日本画の先輩にすぐ相談して、和紙のことや張り方、日本画についていろいろ教えてもらいました。
―その時、顔料についても教えてもらったのですか?
油絵の時も混ぜて使ったりしたこともありましたが、和紙ということもあり、今回も使ってみようと思い、いろいろ教えてもらいました。それがとても新鮮でおもしろかったですね。
―常に新しいことをやっていきたい気持ちが強いのですね
そうですね。絵柄もすごく変わるとよく言われます。
和紙に描くようになったこともそうですが、半年から1年おきで絵柄がガラッと変わることもあります。
逆に、展示にずっと皆さんが来てくださって、本当に有難いなと思っています。
求められていることがわかっていても、新しく描きたい気持ちを止められず、ガラッと変えてしまいますので。
―作品もですが、やましたさんという作家を観に展示に来てくださっていると思います
有難いですね。
緩やかに変化する作家が多いと思いますが、私の中はそこをハッキリと切り替えることが普通で、「今の自分」というものを絵に落とし込んでいます。
―やましたさんの作品を間近で拝見しましたが、線の繊細さと色の多さに驚きました
特に配色は、もし私が描くことになった場合、大胆な配色に少し迷いを感じてしまいそうですが、やましたさんはいかがでしょうか?
描くときに不安や迷いはないです。
変えることに対して恐れなどはなく、逆にずっと同じことをしている方が不安に感じます。
―絵を描くにあたり、どのようなことを大切にされていますか?
嘘をつかずに描くこと。
画面上で考えるのではなく、周りの評価を気にせず、今の自分が描きたいものをちゃんと描くことですね。
―制作する上で最も困難に思うことはなんですか?
締め切りです(笑)
物理的すぎてあれですが(笑)
―どのタイミングで作品を完成とさせるか悩むことはありますか?
ないです。
終わった時に作品の方から「終わったよ!」と教えてくれます。
―奨学金やコンペなどは積極的に出されているようですが、何故ホルベイン・スカラシップに応募したのでしょうか?
学生の頃、積極的にいろいろなコンペに応募していました。
その時からホルベイン・スカラシップに応募していましたが残念ながら選ばれず、相性が良くないのかなと思って少し離れていました。
その後、自分の作品について理解が深まってきたので、もう一度挑戦してみようかなと思って応募したら、奨学生に選ばれました。
―ホルベイン・スカラシップで画材をいろいろ試せましたか?
いろいろ試せました。
普段使わないような画材もいただけて、このような機会がないと試すことがなかったので良かったです。
プロフィール
やました あつこ
YAMASHITA Atsuko
個展
グループ展
その他
パブリックコレクション
受賞歴他
HP https://atat000x.wixsite.com/siatsuko
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