第3回「山本佳子の不透明水彩〈ガッシュ〉集中講座」

風景編
不透明水彩〈ガッシュ〉集中講座の最終回は風景編です。風景との出合いは一期一会。感動をすぐに描き留めておきたい現場スケッチでも、不透明水彩は強い味方になってくれる画材です。3回にわたってお伝えしてきたこの魅力ある画材の性質や、使い方の一例としての私の取り組みを参考に、ぜひもっと自由に絵を楽しんでください。
自分自身の感動を描く
今年、上高地へスケッチに行きました。大自然を前に大いに感動し、圧倒されました。ところが、聳え立つ山々や清流など、誰もが思い描く「これぞ、上高地」という景色と、自分が描きたいと思う風景は、ちょっと違うことに気が付きました。
スケッチポイントを探し歩いて見つけた、巻頭綴じ込み付録の原寸大作品(一枚の繪9月号に掲載)や「雲のある風景」は、山よりも気持ちを奪われて描いた風景です。
師に教わった「よく見て、感動を描く!」とは、こういうことかなと思います。描きたい風景に出合うと特別な気持ちの高揚があります。自然の中を歩き、季節の風を感じ、木々の葉のそよぐ音や小鳥のさえずりを聞きながらの戸外でのスケッチは最高です。常にアンテナを張って、自分の琴線に触れるものとの出合いを大事にしたいと思います。

雲のある風景 不透明水彩(ガッシュ)4号大

上高地の林 不透明水彩(ガッシュ)3号大
写生にはガッシュを携帯
私は写生にはガッシュを持っていきます。本当によく描き損じるので、修正ができるということが大きな選択理由です。
例えば、大きくなりすぎた山を明るい空の色で小さくすることもでき、描き進めるうちに雲が動けば、絵の中の雲も動かすことができます。「雲のある風景」は、後から雲を右に寄せました。
もう一つ、この画材を携帯する大きな理由があります。例えば出合った風景を鉛筆でスケッチし、さらっと色を付けたい時もあれば、しっかり絵具を付けて力強く描きたい時もあります。描き方を自由に選べることもガッシュを使う理由でもあります。「グレッチョ(イタリア)」は、雨が落ちてきそうだったので、鉛筆で描いてほんの少し色をつけたスケッチ。ガッシュは透明に使ってもなかなかきれいです。

グレッチョ(イタリア) 不透明水彩(ガッシュ)3号大
スケッチは短時間で
最近はスケッチ旅行に出かけることも多くなりました。海外もイタリアの風景が好きで、少し無理をしてもチャンスがあれば出かけています。
何日間も絵三昧という状況は日常にはまずありません。以前はそういうチャンスがあっても、その前に少し練習して上達してからなどと思って機会を逃していました。出かけてしまえば、必ず描いただけスケッチの腕も上がり、たくさんの感動を持って帰ることができたのに…。 また、以前はせっかくだからとスケッチポイントを見つけたら、一枚に時間をかけて丁寧にスケッチしていました。時間をかけて描いた絵がうまくいかなければなおのことで、もったいないことでした。その時間があれば何枚もスケッチできていたのに…。
前を見ても振り返っても、描きたい風景が広がるような場所に身を置いたなら、たくさん見て感動し、メモ描きのようなスケッチであっても山ほど描けるほうが、きっと心が満たされます。以来、スケッチはなるべく短い時間でメモ程度にしています。
短時間でも感動して描いた絵は本物です。それをもとに、油絵を描きたくなることもよくあります。「石段と白い家(イタリア)」の風景は、十年前、スケッチして帰ったイタリアのとある場所。いつか油彩にしたいと思っていましたが、ガッシュのこの感じがうまく出せそうになくて、ずっと心の中で温めていました。十年の月日を経て、油彩で描けそうな気がして挑戦してみたら、とてもうまくいきました。

オリーブの丘 不透明水彩(ガッシュ)3号大

石段と白い家(イタリア) 不透明水彩(ガッシュ)3号大
10年前にイタリアでスケッチ。この感じをいつか油彩にしたいと、心の中で温め続けて…

石段と白い家 油彩4号
10年の時を経て、油彩作品に
絵作りの勉強に─初心者から油彩、透明水彩を描く人にも
同じ水彩でも透明水彩は美しくあこがれの画材です。ですが、やはり私はガッシュを選びます。修正を重ねたり、思い切って方向を変えてみたりして絵を描き進めるうちに想定外にうまくいくことも多く、絵を描く楽しさをそんなところにも感じています。また、描き方の近い油彩と比べ、圧倒的に枚数を描けるという意味でもよい勉強になっています。
以前は油彩での大作制作中、それが仕上がってしまうまでかかりきりになっていました。今は気分転換にガッシュで絵を描き、描きかけの絵もどんどん触っています。並行して別の画材を使ったり、ほかの絵を描いたりすることはかえって、油彩での制作にもよい影響があるように思います。
現在、水彩では透明水彩が主流となり、不透明水彩の使い方を知る機会や、実際に使う機会が少なくなっているのは、とても惜しいことだと感じています。これから絵を始める方にはまずおすすめしたい絵具ですし、透明水彩、油彩を描いている方にもぜひ、併せて使っていただきたいと思います。
国内外の巨匠にも、不透明水彩を使っている画家はたくさんいます。例えば日本では小堀進、中西利雄ら、海外ではピカソ、マティスらもガッシュを自在に操り、素晴らしい作品を残しています。
不透明水彩絵具が改めて馴染みのある画材となり、一人でも多くの方に愛用されることを心より願っています。
山本佳子が選ぶ不透明水彩の画材
絵具
ホルベイン「山本佳子が選ぶ 絵を描く人のための不透明水彩絵具〈ガッシュ〉18 色セット」

私の選んだ色組でホルベインさんが作ってくださった不透明水彩絵具セットです。風景を描く時にも多用するセルリアンブルー、コバルトバイオレット、テールベルト、アッシュグリーンや、ピンク色の花を描く時には必ず必要なオペラなど、絵を描くためにぜひ欲しい色、純度の高い美しい色、混色では作れない色など18色を厳選しました。自然界の色はほぼ、このセットで作ることができます。
【色組内容】(15ml 18色)
- ジンク ホワイト
- アイボリ ブラック
- チャイニーズ オレンジ
- バーント シェンナ
- セルリアン ブルー
- コバルト ブルー
- プルシャン ブルー
- ウルトラマリン ブルー ディープ
- テールベルト
- フタロ グリーン
- イエロー オーカー
- カドミウム イエロー レモン
- カドミウム イエロー
- カドミウム レッド
- カドミウム レッド パープル
- オペラ
- コバルト バイオレット
- アッシュ グリーン
大好きな白

大好きな白、ジンクホワイトは、とにかくたくさん使います。一番下が、私が色組を選んだ不透明水彩絵具18色セットに入っている15ml(5号)チューブ、その上が私のいつも使う大きな40ml(9号)チューブです。
「一枚の繪」2018年9月号特別綴じ込み付録
綴じ込み付録には、完成作品ポスターと山本佳子による解説が掲載されています。


山本 佳子(やまもと・よしこ)
岡山生まれ 岡山大学大学院修了
日展入選 一水会新人賞、一般佳作賞 山下新太郎奨励賞、会員佳作賞
日展会友 一水会会員
4月16日より「山本佳子作品展(19’ in Nagoya)ー絵描きの日常ー」開催
会 場:セントラル画材(愛知県名古屋市)
会 期:2019 年4 月16 日(火)— 4 月20 日(土)
詳細はブログをご覧ください

掲載元:
一枚の繪 18年9月号
文/山本佳子
一枚の繪オンラインショップはこちら
※この度、こちらへ載せていただけることになり、連載された「一枚の繪」の文章を少し直させていただいています。また、連載の後にブログなどでお知らせをしていますが、18色セットの箱には実は3色の絵具の入るとっておきのスペースがあります。私はそこにローアンバーやカドミウムグリーンペールなどをプラスしています。セピアもあっていいかもしれません。3色はご自身のオリジナルの絵具を選んでご自分に合った21色セットを作るのも楽しいと思います。