アーティスト インタビュー vol.7「菊池遼」
菊池遼
菊池遼さんは1991年青森県生まれで、現在は東京造形大学大学院博士後期課程に在籍中。
作品制作と並行して精力的に論文も執筆していて、すでに『〈void〉シリーズと水墨画の造形的特徴の比較考察』『〈void〉シリーズについて ―「空」の思想を参照して ―』の二本を上梓しています。
「void」シリーズ
自分としては逆に、デジタル画像の問題に作品が回収されないような工夫をしているつもりです。
「void」シリーズは2015年に最初の作品が完成したのですが、僕の印象では当時、「デジタル画像と絵画」というトピックが流行していました。美術批評家のgnckさんが2014年に美術手帖の第15回芸術評論募集で第一席を取られましたが、その論文が『画像の問題系 演算性の美学』というタイトルで、そうしたことも関係していたのだと思います。
ただ、自分としては仏教における「空」の思想や、「何かを見るとはどういうことなのか」ということに関心があって制作をしていたので、どうしたらデジタル画像の問題から距離を取れるのだろうと当時の状況の中で考えていました。そこで、デジタル画像とは距離のある参照項として水墨画を作品に取り入れることを考えました。
とはいえ、デジタル環境には大きな影響を受けたと思っていて。僕が大学一年生になった2011年にiPhone4sが発売されたのですが、その4sからiPhoneが爆発的に広まりましたよね。それによって、写真を撮ってすぐにその場で編集をすることのできる環境が整ったと思っていて、自分はそのような衝撃を体験した世代だと思っています。
何気なく写真を撮って、アプリでトーンカーブを表示させて、それを弄ると彩度がグッと上がったり、ネガポジがパッと反転したり。その感覚は間違いなく作品の色遣いに活きています。
作品には筆触をまったく残していなくて、そのような手仕事の痕跡を意識的に全て消し去っています。主観の内側から溢れ出るというような表現を徹底的に排除して、より厳密に、より客観的に、といったことを志向して制作しています。
また、そうした客観性への指向とは矛盾するように聞こえるかもしれませんが、自分の制作の動機は自分が生きてきた中で感じてきた違和感で。それを消化したくて制作をしてきました。
どのような違和感かというと、物事というのは主観が対象・事象をそれとして区切ることで初めて存在できるのであって、物事はそれ自体でみずからをかたち作る境界線を持っている訳ではない、というようなことです。常識的には、物事はそれ自体で存在していると考えることは理解しているので、この発想は変ですよね(笑)、でも自分にはそう思えていたので、そこで生じる違和感を作品の内容に込めることで消化してきました。
「没入感」を体感する―作品を「void」シリーズたらしめる視覚効果
描かれた景色の中に入り込んで迷子になってしまうような効果は狙っています。
表現をする際に気を付けているのは「体験」を作るということです。モチーフの意味がこうで、これが表現されていますというような表現ではなくて、実際に作品の前に立ってイメージが見えて、でも近づくとイメージが消えて、さらに画面に自分が映り込んで目のピントがどこに合っているかわからなくなって、というような体験を通して自分の思想を表現したいと思っています。それが「没入感」といった感覚に繋がっていったのではないかと思います。
菊池さんとホルベイン
ホルベインはまず、ホームページの資料・アーカイブがしっかりしていて見応えがあり、そこがすごくいいなと思っています。そういうところがしっかりしている絵具・画材メーカーって他にあまり知りません。
僕はアクリル絵具使いなんですけど、ホルベインのアクリル絵具は発色がすごくいいです。つやと発色のバランスが個人的に使いやすく、もうホルベイン以外使えないかな。
特につやを出したい時にはクリスタルバーニッシュを使っていますが、そういうメディウムも豊富で、表現に応えてくれる画材だなと思っています。
バーニッシュとジェッソは大量に買い置きをしていて、めちゃくちゃ消費しています(笑)
ゴールドジェッソ、シルバージェッソはすごい使いやすくて。きれいなゴールドとシルバーが作れます。ゴールドとシルバーはいろいろなメーカーを使ったんですけど、これに落ち着きました。
最近はアクリリック[インク]もつかっています。つやがちょうどよく出てめちゃくちゃ使いやすいです。あとアクリリック カラー[イリデッセンス]は大量に購入しました。たくさん買ってたくさん使っています(笑)。
僕の制作は新しい色、例えばイリデッセンスとかが出ると、それによって新しい表現が生まれます。なので新しい画材が出るとすごくワクワクします。
──独自の技法と最新の画材を駆使した菊池さんの作品は、デジタルっぽさを感じさせる表現と、菊池さんの作品制作における思想がうまくコントラストをなしている感じがします。
これらは相反する要素かも知れませんが菊池さんの中ではしっかり同居していて、それが独特の作品の雰囲気につながっているのでしょう。
プロフィール
菊池 遼
KIKUCHI Ryo
個展
グループ展
コミッションワーク
受賞
論文
菊池遼オフィシャルサイト
https://www.kikuchiryo.com/
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