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アーティストインタビュー 菊池遼

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次代を担うアーティストの背景、作品に対する思い、メッセージを伺い、その素顔に迫る「アーティストインタビュー」。今回は第33回ホルベイン・スカラシップ奨学生であり、今後ますます活躍が期待される作家である菊池遼さんに、東京造形大学内のご自身のアトリエで話をうかがいました。

菊池遼

菊池遼さんは1991年青森県生まれで、現在は東京造形大学大学院博士後期課程に在籍中。
作品制作と並行して精力的に論文も執筆していて、すでに『〈void〉シリーズと水墨画の造形的特徴の比較考察』『〈void〉シリーズについて ―「空」の思想を参照して ―』の二本を上梓しています。

「void」シリーズ

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──鑑賞する位置によって作品の見え方が変わる「void」シリーズ。
ドットと、水墨画を思わせるおぼろげなイメージ。鑑賞者が写りこんでしまうほど美しく、滑らかな画面。
一見するとデジタル画像にも見える独特の視覚効果を用いて、菊池さんはなにを表現しているのでしょうか。

自分としては逆に、デジタル画像の問題に作品が回収されないような工夫をしているつもりです。
「void」シリーズは2015年に最初の作品が完成したのですが、僕の印象では当時、「デジタル画像と絵画」というトピックが流行していました。美術批評家のgnckさんが2014年に美術手帖の第15回芸術評論募集で第一席を取られましたが、その論文が『画像の問題系 演算性の美学』というタイトルで、そうしたことも関係していたのだと思います。

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ただ、自分としては仏教における「空」の思想や、「何かを見るとはどういうことなのか」ということに関心があって制作をしていたので、どうしたらデジタル画像の問題から距離を取れるのだろうと当時の状況の中で考えていました。そこで、デジタル画像とは距離のある参照項として水墨画を作品に取り入れることを考えました。
とはいえ、デジタル環境には大きな影響を受けたと思っていて。僕が大学一年生になった2011年にiPhone4sが発売されたのですが、その4sからiPhoneが爆発的に広まりましたよね。それによって、写真を撮ってすぐにその場で編集をすることのできる環境が整ったと思っていて、自分はそのような衝撃を体験した世代だと思っています。
何気なく写真を撮って、アプリでトーンカーブを表示させて、それを弄ると彩度がグッと上がったり、ネガポジがパッと反転したり。その感覚は間違いなく作品の色遣いに活きています。
作品には筆触をまったく残していなくて、そのような手仕事の痕跡を意識的に全て消し去っています。主観の内側から溢れ出るというような表現を徹底的に排除して、より厳密に、より客観的に、といったことを志向して制作しています。
また、そうした客観性への指向とは矛盾するように聞こえるかもしれませんが、自分の制作の動機は自分が生きてきた中で感じてきた違和感で。それを消化したくて制作をしてきました。
どのような違和感かというと、物事というのは主観が対象・事象をそれとして区切ることで初めて存在できるのであって、物事はそれ自体でみずからをかたち作る境界線を持っている訳ではない、というようなことです。常識的には、物事はそれ自体で存在していると考えることは理解しているので、この発想は変ですよね(笑)、でも自分にはそう思えていたので、そこで生じる違和感を作品の内容に込めることで消化してきました。

「没入感」を体感する―作品を「void」シリーズたらしめる視覚効果

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──小さい作品でもそうなのですが、特に大きな作品を鑑賞すると、菊池さんの表現による独特の視覚効果によって、見えていたイメージの輪郭が溶けていき、さらに視点が自然とあちらこちらへと移ろって、まるで作品の中で迷ってしまうような没入感があります。

描かれた景色の中に入り込んで迷子になってしまうような効果は狙っています。
表現をする際に気を付けているのは「体験」を作るということです。モチーフの意味がこうで、これが表現されていますというような表現ではなくて、実際に作品の前に立ってイメージが見えて、でも近づくとイメージが消えて、さらに画面に自分が映り込んで目のピントがどこに合っているかわからなくなって、というような体験を通して自分の思想を表現したいと思っています。それが「没入感」といった感覚に繋がっていったのではないかと思います。

菊池さんとホルベイン

ホルベインはまず、ホームページの資料・アーカイブがしっかりしていて見応えがあり、そこがすごくいいなと思っています。そういうところがしっかりしている絵具・画材メーカーって他にあまり知りません。
僕はアクリル絵具使いなんですけど、ホルベインのアクリル絵具は発色がすごくいいです。つやと発色のバランスが個人的に使いやすく、もうホルベイン以外使えないかな。
特につやを出したい時にはクリスタルバーニッシュを使っていますが、そういうメディウムも豊富で、表現に応えてくれる画材だなと思っています。

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バーニッシュとジェッソは大量に買い置きをしていて、めちゃくちゃ消費しています(笑)
ゴールドジェッソ、シルバージェッソはすごい使いやすくて。きれいなゴールドとシルバーが作れます。ゴールドとシルバーはいろいろなメーカーを使ったんですけど、これに落ち着きました。
最近はアクリリック[インク]もつかっています。つやがちょうどよく出てめちゃくちゃ使いやすいです。あとアクリリック カラー[イリデッセンス]は大量に購入しました。たくさん買ってたくさん使っています(笑)。
僕の制作は新しい色、例えばイリデッセンスとかが出ると、それによって新しい表現が生まれます。なので新しい画材が出るとすごくワクワクします。

──独自の技法と最新の画材を駆使した菊池さんの作品は、デジタルっぽさを感じさせる表現と、菊池さんの作品制作における思想がうまくコントラストをなしている感じがします。
これらは相反する要素かも知れませんが菊池さんの中ではしっかり同居していて、それが独特の作品の雰囲気につながっているのでしょう。

グループ展のお知らせ

今回のインタビューをお受けいただいた菊池遼さんが参加されるグループ展が開催されます。

「EUKARYOTE GROUP SHOW2022」
会期:2021年8月6日(金)~9月5日(日)
   ※8月13日(金)~17日(火)お盆休み
   ※月曜休廊
時間:12:00~19:00
場所:EUKARYOTE(東京都渋谷区神宮前3-41-3)

 

プロフィール

菊池 遼
KIKUCHI Ryo

1991年
青森県生まれ
2015年
東京造形大学 造形学部美術学科絵画専攻 卒業
2017年
東京造形大学大学院 造形研究科美術専攻領域 修了
2017年〜2020年
東京造形大学 絵画専攻領域助手
2020年〜
東京造形大学大学院 造形研究科造形専攻美術研究領域 博士後期課程

個展

2019年
「OUTLINES」EUKARYOTE(東京)
2017年
「無/(分節)」Frantic Gallery(東京)

グループ展

2021年
(予定)「EUKARYOTE GROUP SHOW2021」EUKARYOTE(東京)
「Born New Art」渋谷スクランブルスクエア(東京)
2020年
「EUKARYOTE POP UP EXHIBITION」WHAT CAFE(東京)
「appropriate distance」銀座 蔦屋書店アートウォール・ギャラリー(東京)
「DELTA Experiment」TEZUKAYAMA GALLERY(大阪)
「ホルベイン・スカラシップ成果展」佐藤美術館(東京)
「for better (or) for worse」EUKARYOTE(東京)
「Visionary Vision」MEDEL GALLERY SHU(東京)
2019年
「雲に杭を打つ」東京造形大学(東京)
「"Hope’s harbinger"特別展示 香月恵介×菊池遼 二人展」EUKARYOTE(東京)
「"OUTLINES"特別展示 菊池遼×香月恵介 二人展」EUKARYOTE(東京)
「LUMINE ART FAIR -My First collection-」ルミネゼロ(東京)
「菊池遼|香月恵介 イメージとの距離」関内文庫(神奈川)
「東京造形大学第五回助手展」東京造形大学(東京)
「もの・かたり - 手繰りよせることばを超えて」 ヒルサイドフォーラム(東京)
「HELLO My name is ________」EUKARYOTE(東京)

コミッションワーク

2019年
ミュージアムタワー京橋(10〜15階、17〜22階、23階)

受賞

2021年
メルク社・スカラシップ - Art Work With Merck 2021奨学生
2019年
第33回ホルベイン・スカラシップ奨学生
2017年
「ZOKEI展」ZOKEI賞(修了制作優秀賞)
2015年
「第二回CAF賞」入選
「ZOKEI展」ZOKEI賞(卒業制作優秀賞)
2014年
「TURNER AWARD 2014」未来賞

論文

2021年
『〈void〉シリーズと水墨画の造形的特徴の比較考察』
「造形研究論集 2021年度」(p.51-77) | 発行:東京造形大学大学院造形研究科
2020年
『〈void〉シリーズについて ―「空」の思想を参照して ―』
「造形研究論集 2020年度」(p.41-69) | 発行:東京造形大学大学院造形研究科

 



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