アーティスト インタビュー vol.10「小野 仁美」
今回は今後ますます活躍が期待される作家で、第32回ホルベイン・スカラシップ奨学生の小野仁美さんに、ご自身のアトリエで話をうかがいました。
Playing with colors
小野さんの作品は絵絹の上に広がる色の滲みやレイヤーの美しさが印象的です。
画面上にある色彩やトーンによって作品の印象は変わり、様々な表情を観ることができます。
この小野さん特有の表現はどこから生まれたのでしょうか。
絵画とのかかわり アートとのかかわり
―小野さんが絵を描きはじめたきっかけを教えてください
何か切っ掛けがあったから描き始めたということはあまりはっきりとしないのですが、小さい頃から絵を描くことは日常的なことになっていて、家だと壁にクレヨンで落書きしてしまうような子どもでした。母はせっせと消していたそうです。
幼稚園や学校でも周りに絵を描く子が多かったので、友達ともいっしょになって描いているような状態でした。
―絵を描くことが好きだったのですね。どんなものを描いていましたか?
割と好きなものを描いていたような感じで、近所の動物園に行ってクジャクとか花を描いたりなどしていました。
近くに大きなお寺もあるんですけど、そこには昔、絵画コンクールがあって、それでお地蔵さんとか描いて応募したりとかしていて。
中学生の時は美術部に入りました。顧問の先生がすごく熱心で、活動日が運動部並みにあったり。幾何形体の石膏像も描かせてもらったりとか。
―本格的なんですね
はい。画集の油絵を水彩絵具で模写したり、地元のポスターコンクールに応募したりしていました。
土曜日には必ず人物クロッキーがあって、モデル台でポーズを取る部員を最初は10分でタイマーを掛けて描いていたんですけど、どんどん時間が短くなっていって、最後は3分で描いてみよう、とか。そのお蔭でデッサン力が磨かれたのかな、と思います。
―作品鑑賞もよくされていましたか?
そうですね。部活動で美術館によく連れて行ってくれる先生でした。
―大学では油絵専攻でしたが、油絵はいつから?
高校生の時です。
高校でも美術部に入りましたが、高校の顧問の先生も熱心な方で、無料で作品が観られるからと、都内のギャラリーなんかによく連れて行ってくれました。
その時、美術の作家ってたくさんいるんだな、作品のジャンルもいろいろあるんだな、と知ることができた貴重な機会でした。
―小さなギャラリーなんかもまわられて?
そうですね、銀座の入りにくい雰囲気のギャラリーにも連れて行ってくれました。それで心の準備というか、度胸が高校生のうちにできました。
―連れて行ってもらったギャラリーは先生の志向や好みが反映されていたのですか?
いや、興味のなさそうな展示は「ちょっとわからないわ」って、すぐ出て行ってしまっておいてけぼりに(笑)
「よかったら観ていていいのよ、私は次に行くから」とか(笑)
中学、高校とよい先生に巡り合えて、すごく運がよかったと思います。
画材のこと 制作のこと
―アクリル絵具をメインの画材として使い始めたのはいつのことですか?
大学3年生の時です。
コースが分かれるタイミングだったのですが、絵画以外にも映像や立体など様々な表現を選択するひとが多い現代美術寄りのコースを選びました。
その際に、なぜこの素材を使っているのか、とか、なぜ絵画を描いているのか、とか考えることが多くなり、そうなると油絵である必要性って何だろうって思ってくるんですよね。
作品に使う素材について考える時期でした。
―小野さんの作品は色の滲み、レイヤーの表現が印象的です。
ホルベイン・スカラシップ認定時に発行された冊子「アクリラート」の記事には、「イメージやエスキース、クロッキーなどから頭の中や紙の上で計画して始まるものではない。無作為に絵具が落ちる。」とあります。
小野さんが「描きたい」という衝動がおきる時は?
小野さんの作品を制作する動機、モチベーションについてきかせてください
特定の何かを見て描くという作品の作り方ではないので、モチベーションの維持が課題になったりしますが、いちばん大事にしていることは画面の中で起きることに、次はどうしようか、どう手を出そうか、などと対処することを楽しむことです。
色が滲んでいく様子を見て「触りたい、いじりたい」と思うところが衝動なのだろう、と思います。
モチベーションになるものとしては、美術館やギャラリーなどで他のひとの作品を観て、自分も描かなければ、となる気持ちと、散歩とか普段の生活の中でいいな、と思った構造とか、目に入った色の組み合わせとか、野良猫を撫でたりした感触などから拾ってきたものを蓄えているのかな、と思います。
―小野さんは支持体に絵絹やオーガンジーを使われていますが、そのきっかけは?
もともとポリエステルとか化学繊維の薄い布を重ねて描いていたりしていて、レイヤーとか、重ねることで見えてくるモアレの構造とか、そういったものが面白いなと思っていて。
絵具の引っ掛かりとかも変わってくるのも楽しんでいます。
大きな画面になってくるとポリエステルだとちょっと弱く、耐久性の問題が出てきますが、表具屋さんで絵絹は破れにくいから使ってみたら?と勧められて試すようになりました。
ポリエステルとはその質がかなり違って、いろいろ大変なこともありますが、作品の耐久性は絵絹の方があるのかな、ということで最近はこちらを便利に使っています。
下地はやすりがけをして膠で目止めした木製パネルにジェッソを何度か重ねて塗ってはまたやすりをかけて、を繰り返しています。その上に布を引いて支持体にしています。
エッジの効いた線を残したいときは、布を引く前のジェッソの上に絵具をのせたりする場合もあります。
―小野さんがスカラシップの認定を受けられたのが第32回、2017年の時ですね。
もう5年前になりますが、その頃の作品と現在の作品とでは何か変化はありますか
私はもともと気分などが作品に出てしまいやすいのですが、スカラシップの認定前はとても暗い色調の作品ばかりができてしまう時期がありまして、知人から「何かあったの?」と尋ねられてしまいました。
ちょうど母に病気の症状が出始め、通院、入院や介護などが始まって、絵を描くどころか、これからの生活はどうなるのか、と不安になっていた頃でした。
そんな時、ホルベイン・スカラシップ奨学生に認定され、画材の支援が受けられることになり、気が楽になりました。
そのまま修了制作に取り掛かりましたが、その作品では大きく光を取り込めたと思います。
最近は生活環境も変わり、軽い明るさの色味を使うようになりました。また、あまり深追いしないように、眺めて考える時間が増えました。
小野さんとホルベイン
―特に気に入っているホルベイン製品はありますか?
ドローイングでは透明水彩絵具を使っています。発色や紙へのくっつき具合が扱いやすいです。予備校に通っていた時、日本画の先生にホルベインの透明水彩をおすすめしてもらいました。
ジェッソは粒子のサイズが選べるので、「ジェッソS」を下地に好んで使っています。何度も重ねて、やすりがけを繰り返していくとサラサラの平滑な面がつくれます。
アクリリックガッシュを多く使っていますが、大きめの作品を描く時は「アクリル絵具マットタイプ」を使っていました。色数はヘビーボディやガッシュと比べると少ないのですが、粒子が大きいためか、滲みの具合がとても好みです。
アクリリックブラシは柄の部分がクリア塗装のみで、傷んだコーティングが剥がれて作品にくっついたりせず、安心して長く使用できます。
―小野さんにとって、ホルベインとは?
絵具や画材など、製品のラインアップがものすごく幅広くて、次の挑戦をしたい時に助けてくれるメーカーだと思っています。
ホルベインの刷毛は最近、ナイロンとかシリコンとかちょっと違うタイプのものがいろいろありますよね。スキージっぽいものとかも。あれも試してみたいと思います。
いろいろな絵具や画材をみながら、こんな作品がつくれそうだな、と考えたりすることが楽しいですし、心強く思っています。
―作品を描くこと、描くことを楽しむことは、欠かせない小野さんご自身の一部。
静かな語り口の中に、小野さんの尽きない描画への興味や期待感が感じられました。
ともすれば、つい私たちも忘れがちな描くことの楽しみ。
小野さんにはこれからもぜひ、楽しみながらすばらしい作品を作り続けていただきたいと思います。
私たちも製品を通じて、できる限り小野さんのようなアーティストをサポートいたします。
プロフィール
小野 仁美
ONO Hitomi
個展
グループ展他
受賞歴他
パブリックコレクション
一般財団法人 守谷育英会
株式会社 チャーム・ケア・コーポレーション
Instagram
https://www.instagram.com/ooioi_h/
Twitter
https://twitter.com/ooioi_h
Tumblr
https://okojonohitomi.tumblr.com/
■前回の「アーティスト インタビュー」記事はこちら!
■「アーティスト インタビュー」記事一覧はこちら!